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2013年12月31日 (火)

今年もお世話になりました:2013年の私的ベストバイ

皆さん、今年もお世話になりました。今年は前半に研究専従期間を頂いて、日本西洋史学会での「礫岩国家」論をご披露する機会に恵まれるとともに、久方ぶりにルンド大学歴史学部に客員研究員として滞在、旧交を温めつつ、懸案の『リネーの帝国』の実現にむけて一歩を踏み出すことができました。(現地では20世紀前半に『日本史』を執筆したウップサーラ大学歴史学教授のH.イァーネを主軸において国民主義的な歴史叙述が一般的だった時代にグローバルな歴史観はどのようにありえたのか共同研究を進めようという話も出てきました。)帰国してみれば通常ノルマの約2倍で働く日々が待っていたのですが、それでも「礫岩国家」論の論集実現にむけて動き始めましたし、『リネーの帝国』絡みでもそれを銘打った論文を二本書き上げました。そして、なにより韓国の歴史学者の方々との交流は、「なぜ日本で北欧の歴史を研究するのか?」という素朴な疑問から出発して、「「礫岩国家」や「リネーの帝国」といった主題をアジアで語るには、どのような観点が戦略的に必要なのか?」まで僕自身の活動を足下のアジアから刺激してくれる経験となりました。

忙しいことは今に始まった訳ではなく、自由な時間がほとんどないことはこの業界で働いている以上どうしようもないことです。という訳で、趣味の買物や道具集めにゆっくりと時間を費やすこともできない。だから今年の買い物は、ネット上でパッと見たら直感に頼ってサッと購入する…というスタイルがますます深刻の度を増し…あぁ、だいぶ「失敗」したなぁ…。(僕の散在は、アベノミクスとやらに幾ばくかは貢献したのだろうか…?)とりわけスウェーデン滞在を理由にiPad mini用にと買い漁ったスタイラスペンの類は「全敗」でしたね。(これについてはスタイラスペンがいけないのか、iPad miniがいけないのか、はたまたそのアプリがいけないのか…はわかりません。手元に残ったスタイラスペン…どうしよう?)「買ってよかったなぁ。」と思う道具とは、使っていてそれが日頃の生活に知らず知らずのうちに溶け込んでいくものだと僕は思っています。使うときにあらためてエイやっと何か意識的にならざるをえないものは、思考の流れを途絶させるものであり、ストレスを生み出しがちです。(僕はウルトラスーパーハイパー短気なのです。阪大の教員になってから、その傾向は強まった感があります。とにかく、ちゃっちゃかと生きたい…否、生きざるを得ない。)と言うわけで、今年一年の皆さんのご厚情に感謝しつつ、こちらに(今年僕が世話になった)私的ベストバイを三つ掲げますので、年越し蕎麦でもすすりながら読んで頂けたら幸いです。よい年をお迎え下さい。

第一位 キャリーバーの高さを自由に調節できるストッパー付きハードキャリー(33L)

「フライング・プロフェッサー」とか揶揄されながらノマドな出張生活が続く身としては、身体にストレスのかからないキャリーバッグは必需品。加えて、金銭的にも懐にやさしいものがベストなわけです。二泊三日〜三泊四日の短期出張用に買い求めたバッグが、この無印良品のキャリーバッグです。特筆すべきは、キャリーバーの高さを自由に調節できる点。通常のバー調整は二段階、三段階でスライド式のものが多いと思いますが、これはストッパーを離したところで高さが調整できる。楽だなぁ。さらにカートのロック機構がバッグ裏面についていて、キャリーバッグが電車やバスのなかでころころと動き回らないところもよい。キャリーバーの収納部がバッグ内面にでている点は玉に瑕ですが、このサイズでは仕方の無いところでしょう。TSAロックにも対応しているので、短気の海外出張ならこれでOK。多少の傷をもろともせずガンガン使い倒せる「気分」にさせてくれる格安の値段設定もよい。

第二位 ギャツビー ヘアジャム タイトニュアンス

整髪料としては、忙しい朝の時間帯に寝癖も一気に直せちゃうUNOのフォグバーを愛用してきましたが、これに替わる一品として僕が注目したのが、今年登場したGATSBYのヘアジャムです。この種の手に塗るタイプの整髪剤は、手にネットリと残る感じが個人的にスキになれなかったのですが、これはベタつかずに髪の毛にスッと馴染む感じが絶妙です。フォグバーの場合、ちょっとした形をつくるには力が弱い…というか、僕のウルトラストロング直毛には弱い感じがあって、部分的に形をつくる場合には結局べとつく感じが嫌なのにワックスも併用せざるを得なかった。これはこれひとつで、一気にちゃっちゃかとそれなりに形がつくれる感じがストレスフリーでよい。なにせ、ちゃっちゃかと生きることを迫られていますから。



第三位 富士通 ScanSnap SV600

この秋にMacOS X用のドライバが発表されたのを待って、研究室に導入しました。巷で話題の非破壊式スキャナです。厚みのある本などをスキャンする際にブックプレッサーは必須ですが、スキャンの必要な箇所だけサッとスキャンできるのは実に便利。これまで歴代のScanSnapを愛用してきましたが、僕は本を裁断するのが忍びないので、結局A4紙にコピーしてからスキャンしていました。これはA4紙が無駄になるし、なによりコピーをとるプロセス自体が無駄。最新のScanSnap iX500がスマートフォンやタブレットとの連携も考えてWifi環境で使えるのに比べると、未だにUSB接続させた「母艦」となるPCをかませなければならないのは、こうした類の製品として初発であること考えると仕方が無いところかと思います。初発という点では、スキャンした本の画像を補正するソフトウェアのできが今一歩…というところもあるかも知れません。(それでもブックプレッサーを使えば、スウェーデン語や英語といった欧文文献の場合、現行の画像補正ソフトで、OCRも十分な精度で文字を拾ってくれる程度の十分なスキャンができます。)SV600の「絹布の上を這うような」スーッと流れるスキャニングプロセスは、雑事にかまけて「汚れちまった」勉強心を再び純粋無垢なそれへ「洗い流してくれる」ような気にもしてくれます。



(次点としては、GoogleのNexus7あたりが入るかも知れません。旧iPad miniよりは遙かに見やすい発色のよい液晶、手に馴染む7インチクラスタブレットのサイズ感、MicroSIMカードを替えれば世界中のどこでも使える安心感(…僕はLTEモデルを国内ではBIGLOBE LTE 3Gの月980円のエントリープラン で運用しています…)となかなか良いものですが、如何せん僕たちの要求する「ハードな知的作業」に耐えうるアプリの数が少なく、SlimPort経由で画像を出力してプレゼンテーションに使えるところまで至っていない点で、なかなかiPad miniをリプレースできないままです。(Android 4.4でのPowerPointプレゼンを実践されていらっしゃる方がいらしたら、ぜひご教示ください!)なので次点扱いですが、プライベートでの使用なら、値段も安くて僕は良いと思います。)


2013年11月14日 (木)

漂流するポストAppleの模索

まさか、このようなタイトルの発言をこのブログに書くことになろうとは、数年前なら想像さえできなかった。数年前ならば、ひとつの流れとして知的作業を途切れさせることなく、それを支援してくれる道具は間違いなくApple社の提供してくれる一群の商品だった。


そうした感覚にぼんやりと違和感を覚えるようになったのは、iPhone5とiPad miniが出た頃だった。ブラック&スレートなiPhone5は弱々しい塗装はさることながら、筐体後背面の段差があるつくりは気泡なく保護フィルムを貼ることもかなわない。筐体デザインの断片化が知的作業の断片化を生み出すとまで、議論を飛躍することはできない。けれど、iPhone5をはじめて見たときに、完全なエコシステムの構築に万全を期してきたAppleのコンセプトに、ちょっとした「ヒビ」が入ったような感覚を得たものだ。iPad miniもそう。iPad miniは市場での7インチクラスAndroidタブレットの隆盛に後押しされ形で登場した感じがする。売れたとは思うけれど、iPad2クラスの処理能力のままretinaディスプレイを搭載できず、とりあえず小さな筐体ででっち上げられたようなものなので、中途半端さは拭えない。講義の際、処理能力の低い初代のiPad miniではスライドの切り替えに時間を要することがしばしばあり、何度「ごめん、ちょっと待って下さいね」と詫びたことか。(スマートが売りだったApple社の製品が「鈍くささ」を醸し出すようになった。)MacOS X Mavericksやそれに伴うiWorkのアップデートに至っては無償化という点が大きく宣伝されたけれども、新たに創造力をかきたてられるような機能の「提案」があったでもなく、逆に多言語間キーアサインの不一致などに不具合や、iWorkでの一部機能の後退などもあり、明らかに知的作業の「流れ」を断絶させる方向に僕を導いた。(iPhone5Sは使っていないのでわからないが、A7プロセッサの64bit化が大きく処理能力を向上させたらしいけれど、それに伴ってOSの挙動が不安定になっては本末転倒というものだろう。)


一言で言えば、最近のApple社の製品に、僕は「焦りに基づく取り急ぎ感」を見ているのだ。かつてのApple社のラインナップは、自社の目指すエコシステムに位置づけられ、とても明確だった。シンプルなラインナップは、ひとつひとつの製品の品質をじっくりと確認する余裕も与えただろう。一方でiTunesあるいはiCloudを核としたエコシステムがそれなりに機能するようになり、他方でその模倣が他社から提供されることになった結果だろうか、ここ数年、シンプルなラインナップの構成は完全に崩れた。タブレット端末はiPadとiPad mini、スマートフォンはiPhone5SとiPhone5Cといったように。僕は企業経営や市場戦略の専門家ではないから素人の戯言としてここに記すけれども、消費者はあるひとつの用途を求めてひとつの端末を購入するわけでから(・・・マニアでも無い限り、タブレット端末やスマートフォンを複数購入するなどということは普通はしないだろう・・・)、同じ会社で似たような機能をもつ端末を複数ラインナップにあげるということは、市場のパイをせばめることになるのではないか(・・・みんながみんなApple社のものばかりを買うことはないだろうから・・・)と思う。ラインナップを増やすということは、それだけそれぞれの商品の品質管理の負担が増えるということだから、ひとつひとつの製品に丹念に時間をかけられたシンプルな時代とは異なり、当然品質管理の面でも手が回らず、問題が起きやすいということになる。簡単に言えば、欲を出しすぎると足下が掬われるということだ。それは企業にとってもっとも大切にせねばならない信用を失わせる結果となる。先に紹介したiPad miniやMavericksの話は、こんなところを背景にして出てきた問題んだのではないかと感じている。


取り急ぎ僕にとって大切な問題は、Apple社の製品が僕の知的作業を「鈍くさい」方向に導きつつある今、次のオルタナティヴを選び出すという点である。僕はAppleマニアだったからApple社の製品を愛用してきた訳ではない。Apple社の製品がエコシステムの上に絶妙に配置された結果、知的作業の流れを最もスムーズに支えてくれたからこそ愛用してきたのである。つまり僕の仕事の作業上、一貫した知的な流れをストレスなく補ってくれるものであれば何でも構わない。こういう観点に立って、僕は今年に入ってからいくつかの道具を試してきた。僕の仕事の根幹は文章執筆だから基本となる道具はPCである。これについてはMetro UIを搭載したWindows8の動くノートパソコンをしばらく使ってみた。僕はWindows8自体は軽快で安定していてよいと思う。ただしWindows上で動くスウェーデン語やデンマーク語の辞書もないものだから、Windowsのよさはただ一点高度なビジネス文書の編集ができるMicrosoft Officeが使えるということだけに限られる。CroverTrailの搭載された商品だったことがいけなかったのだと思うけれども、とにかく処理速度が遅く、まともにPowerPointなどが動かない。それと、ある作業を行おうとするときに経由しなければならないプロセスの多さ。これらは無用な時間のロスとストレスしか生みださない。Windowsの使用をあきらめ、PCに関しては不具合を承知にMacしか選択肢はないのだと思っている。


問題はスマートフォンやタブレットなどの携帯端末だ。この夏のスウェーデン滞在の際には、Windows8の運用に併せてWindows Phone8の実力を測ろうとNokiaの端末を持参した。Nokiaのハードウェアのできも、OSとしてのWindows Phone8のできもよかった。けれど、スマートフォンなどというものは、MicrosoftやNokiaがいくら頑張ってみても、ユーザ側から見れば結局のところ導入されるアプリの質によってその善し悪しが決まってしまうものに思う。Windows Phoneに関してはアプリの数が圧倒的に少ない。いや、正確に言えばアプリの数自体は多いのだけれども玉石混淆・・・というよりはっきり言って石が多い。iOSやAndroidで提供されているような質が維持されておらず、現時点での継続的運用は不可能と判断した。そして現在、僕はAndroid端末をいくつか試験的に運用している。5インチクラスのスマートフォンであるNexus5と7インチクラスのタブレットデヴァイスであるNexus7である。これらの運用当初、「Androidもヴァージョン4に至って、アプリの充実度もiOSにおいついたのかな」くらいに思っていたのであるが、個々のアプリの質の点で僕はAndroidはiOSに劣っていると言わざるを得ない。とりわけビジネス文書編集用のオフィス系のアプリ。iOSではiWorkのサブセット版が提供されており、それだけでもそれなりの編集作業ができる。これに匹敵する編集能力をもったオフィス系のアプリは、Androidではいまだ存在しないだろう。それともうひとつ。Android端末の決定的な短所は、画像出力機能の貧弱さである。Nexus7の場合、SlimPortという外部出力端子があってHDMI接続が可能らしいのだが、そもそもこのSlimPortに対応したHDMI変換アダプタが市場に出回っていない。もしそれが手に入ったとしても所詮HDMIへの出力となってしまう。いまだ巷に多く出回っているVGAとの接続には、不安と工夫が伴うことになる。


現時点で、Android端末は趣味的な使用に関しては多いに僕を満足してくれるものだけれども、知的な作業を支援する道具としては不満を感じざるを得ない。この点では明らかにiOS端末が上を行くものであるけれど、日本におけるiOS端末には決定的な問題があって継続的な使用を再考せねばならないとも思っている。SIMロックという問題である。海外での知的交流が日常的な業務となっている身としては、SIMロックの問題は回避できない重要な問題である。これはApple社の問題というよりも、日本の通信キャリア側の問題であることは承知している。グローバルな基準で開発され実力をもった製品が、日本国内における市場戦略からSIMロックを施され、その実力をグローバルに発揮てきない現状がそこにはある。そうなると勢い、僕の関心はSIMフリー端末へと向かわざるを得ない。GoogleのNexusについていまだ知的作業を支援する道具として欠点を感じつつも、僕が試験的に運用をはじめた理由は、この一点にのみ帰せられる。これまでもSIMフリー端末は、Androidのヴァージョン2クラスやWindows Phoneでも使用してきたが、世界的に時代はLTEのような第4世代の高速大容量データ転送へむかっているから、Nexus5とNexus7というSIMフリー端末を選んだ次第である。


いささか漂流気味ではあるが、はたして僕のポストAppleの模索はどこへと向かうのか。折を見て、このブログでも報告していきたいと思う。


2012年5月23日 (水)

ラップトップPCと決別する日〜MacとiPadとの統合環境の構築について

「僕たちはいつまでパソコンという道具を使い続けるのだろうか?」、「ナレッジワーカにとって、過去四半世紀にわたり絶対的に必要とされてきた道具も、いずれは時代の流れのなかで陶太されていくのではないか?」そうした茫漠とした思いを胸に秘めながら、東大西洋史研究室のクリオの会が刊行している『クリオ』26号に「西洋史研究者のためのスマートフォン活用入門〜ポスト・パーソナルコンピュータ時代の知的生産術」を執筆した。もちろん僕らのライティング環境において、その中核に位置する道具は今後もしばらくはパソコンのままだろう。実際に上記の拙稿もパソコンで執筆しているし。ただ、それを補完する外出時の道具として長年重宝してきたラップトップPCとは、そろそろ決別の日が近づいているのかも知れない。

外出先でのモーバイル環境において、ラップトップPCを代替するデヴァイスとして、iPadに代表されるタブレットデバイスの隆盛が著しい。(上記の拙稿で紹介した方法も、スマートフォンとタブレットデヴァイスに搭載されている基本OSはかわらないので、基本的にはタブレットデヴァイスに応用できる。)タブレットデヴァイスがラップトップPCを完全に代替するにあたって、それは実のところ、タブレットデヴァイスの入力方法が長文入力に適していないとか、ナレッジワーカに必要なアプリケーションが少ないとか…そのようなことが根本的にネックになるとは僕は思っていない。文字入力についてはBluetoothで無線接続させるキーボードでその機能を補完すればよいし(…僕はふだん書斎でも研究室でもAppleのWireless Keyboardを使っているのでIncaseのOrigami Workstationを使ったり、定評のあるリュードの折り畳みキーボードを使ったりしている…)、脚注などを挿入してしかるべき論文の体裁を整えるアプリケーションも今は数は少ないが、iPadならばすでにPagesがあるように、今後は増えていくことだろう。

両者が完全に代替されるにあたって最大の条件となるのは、ライティング環境の中核にあるパソコンとタブレットデヴァイスとの間の連携に壁がなくなり、完全に統合されたデスクトップ環境が実現されることにある…と僕は踏んでいる。現状で両者の連携は、iPadの場合、iTunesのようなアプリケーションを仲介させる必要があるが、それで両者をつなぎ合わせても両者の情報が同期されるだけ。こうしたアプリケーションを媒介させることなく、それぞれに表示された文字列などの情報を、相互にコピー&ペーストなどの操作を経てやり取りすることは難しい。(以下に紹介するPastebotのようなクリップボード拡張アプリを用いれば、iPadからMacへの文字列のコピーは可能だけれど。)

Screen_2

まずは、このスクリーンショット画像をご覧頂きたい。これは、僕が自宅でのライテング環境で中核に置いて使用しているMacの画像である。この画像から確認頂けるように、ようやくMac OSのデスクトップ上にiOSの作業環境を表示させ、Macで使っているキーボードをiPadにも共有させることで、Mac OSとiOSの作業環境を…シームレスとまではいかないが、交互に入れ替えて行うことができるようになった。この画像の右側に写っているアプリケーションは、iOS版のNorstedts engelska ordbok proである。日本における北欧語使用者にとって、北欧語の電子辞書は長年の夢であったものの、iOSやAndroid OSで動作する…情報に信頼のおけるしかるべき辞書アプリが販売されるようになったため、その夢は現実のものとなった。しかし驚くべきことに、MacOS Xの環境においてスタンドアローンで使用できる北欧語の辞書アプリケーションは、(…かつてのMacOS 9までのクラシック環境ならば存在したが…)存在していない。それゆえ勢い次の夢は、パソコンとiPadのようなタブレットデヴァイスを連携させ、両者の間に障壁のない統合されたデスクトップ環境を築くことにあった。これができれば、例えばiOSにしか用意されていない辞書アプリの文字列情報も、ライティング環境の中核にあるパソコン側で編集することができ、パソコンで執筆している文章の内容に活かすことができるからだ。

そうしたパソコンとタブレットデヴァイスとの間の壁が、今ようやく崩れようとしつつある。このスクリーンショットにみられるMacのデスクトップ上に表示されたiPadのデスクトップは、Reflectionというミラーリング・アプリケーションによって実現されている。MacとiPadが同じネットワーク下に接続されていれば、Mac側でこのアプリを起ちあげ、iPad側でAirPlayの機能を用いれば、iPadの環境をMacのデスクトップ上に再現できる。iPadで入力された情報がMacのデスクトップに反映されるのに一瞬のもたつきはあるが、個人的には十分な反応速度だ。もとより僕は自宅のライティング環境においてiPadにはキーボードを繋いで電子辞書専用のデヴァイスとして用いてきたが、この画像の右下に見えるType2Phoneというアプリケーションを使えば、MacにBluetoothで無線接続しているキーボードをiPadと共有できる。つまり従来、僕の書斎の机上には二つのキーボードが並んでいたのだが、これを一つにまとめることができるようになったのだ。(言語の切り替えについても、切り替えのショートカット設定をMacOSとType2Phoneで別々に設定すれば、それぞれMacの言語環境とiPadの言語環境を別々に切り替えることさえ、ひとつのキーボードでできてしまう。)

この画像の中央にあるアプリは、『Mac Fan』2012年6月号の「スペシャリストのMac」でも簡単に紹介されていたテキストエディタBywordである。このBywordにコピーした文字列は、(…試しに、Type2Phoneで言語環境をスウェーデン語に切り替え、iPadにあるNorstedtにスウェーデン語のårを入力して検索してみたが…)右側のReflectionでミラーリングしているiPad上のNorstedtの辞書にある文字情報をコピーして貼り込んだものである。これまでもPastebotのようなiOSのクリップボード拡張アプリを使えば、iPadからMacへ文字列のコピーは可能だったけれど、統合されたデスクトップ画面上でそれを行うことはできなかった。(逆に、MacからiPadへはDropCopyのようなアプリを使えば可能である。)そうしたことを思えば、ReflectionとType2Phoneの併用は統合されたデスクトップ環境の実現を格段に進化させたと言える。(ただし、まだMacとiPadの統合されたデスクトップ環境は完全なものではない。例えば、ポインティングデヴァイスの共有はないので、Mac側のマウスやタッチパッドでReflection上にミラー表示させたiPad側の文字列範囲を指定することはできない。)

僕たち人文系研究者のような不断に長文の執筆を求められるナレッジワーカにとって、パソコンがライテング環境の中核に位置づけられるのは今後もしばらくは変わらないと思う。このブログの発言は、書斎や研究室にあるパソコンを補完し、主にモーバイル環境で使用する道具についてのことだ。パソコンとタブレットデヴァイスとの間の壁が徐々に取り払われ、両者のデスクトップ環境が完全に統合された暁に、そうした補完用途で用いるラップトップPCとの決別の日が僕のもとには訪れるのだろう…と、Reflectionを導入して統合されたMacとiPadのデスクトップ画面を見ながら感じている。

(決別の日以降、はたしてラップトップPCが廃れるのかというとおそらくそのようなことはない。ラップトップPCは書斎や研究室などのライティング環境の中核に置かれることになろう。バッテリを搭載して単体で搬出できるラップトップPCは、通常の時は液晶モニタやプリンタなどの出力装置やキーボードやマウスなどの入力装置と接続させることで、書斎や研究室でのライティング環境を支え、必要な時には自宅内やキャンパス内で短距離移動して用いるような道具となろう。Thunderbolt DisplayとMacBook Airを組み合わせたライティング環境のように…Thunderbolt接続のような高速汎用データ伝送規格があれば、そのような環境は容易に実現できるのだから。)

2011年3月30日 (水)

海外でのスマートフォン使用のすすめ(修正版)

短期間ですがフィンランド・エストニアへ出張していました。(いろいろと公務がありますので、3月末という時期しか今年度は出張時期を選択できませんでした。)今回の出張で僕は何を考えていたのかは別の発言に整理するとして、僕の経験のなかで皆さんにも役立つ情報をこの発言では整理します。

それは海外でのスマートフォン使用についての情報です。これまでも携帯電話の国際ローミングサービスなどありましたが、高い通信費が懸念され、またデータ通信を行えないなど難点がありました。これに対してプリペイドSIMカードが使えるスマートフォンならば、通信費を気にすることなく携帯電話として使え、また単体としてデータ通信ができることはもちろんテザリング機能があるものならばモバイルルータとして外出先でのラップトップPCによるネット接続も可能にします。

今回、僕はイー・モバイルで売られているPocket Wifi Sをフィンランド・エストニアに持ち込みました。Pocket Wifi Sについては、従来からイー・モバイルのデータ通信端末を使っていたため、国内ではそのSIMカードを継続して使う(つまり電話としての通話機能は使わない)ということで、端末を一括購入(19800円ほど)しモバイルルータとして使っています。端末本体の価格が2万円を切るスマートフォンは現時点でPocket Wifi Sくらいしかありません。(ただしバッテリの持ちが悪いとか、処理速度が遅いとか、画面解像度がQVGAなのでAndroid用のアプリがすべて使えるわけではないとか…格安端末ならではの問題はあります。)

僕は、普段iPhoneを愛用しています。もしiPhoneで海外のプリペイドSIMカードが使え、テザリング機能が解放されていれば、Pocket Wifi Sを買う必要は全くないのですが、国内でSoftbankが売っているiPhoneはSIMがロックされ、テザリング機能も閉じられています。それゆえ、海外でSIMカードも使え(いわゆるSIMフリー…ただしイー・モバイルは公式にはこれを認めていません)、テザリング機能をもった端末(…国内ではほとんど使わないのだから、できれば格安で…)が必要で、Pocket Wifi Sはそうした僕の必要性に最も適う端末でした。

今回ははじめての海外運用ということでしたが、結果から言えば、出張中最も役立つ道具となりました。まずフィンランドのヴァンター空港に降り立ち(…すれ違いで帰国だった津田塾大学のIさんとビールを一杯ひっかけた後に…)R-KioskiでSaunalahti.fiの7ユーロもしないプリペイドSIMを買いました。ヘルシンキの町中へ向かうバスのなかで、早速Pocket Wifi Sの裏蓋を開け、E-mobileのSIMカードと交換します。電源を投入するとSaunalahti.fiの場合、まずPINコードの入力を聞いてきますので、ここで初期設定値である1234を入力するとロックが解除されます。その後、Android携帯の場合には、自動的に18258というSaunalahti.fiの番号へSMSが送られ、言語設定がなされます。このときEnglishを選択します。電話の機能だけならば、これでおしまい。あとはプリペイドSIMに含まれた料金分の通話ができます。

データ通信を試みる場合には、設定→無線とネットワーク→モバイルネットワークでAPNの設定が必要になります。新しくアクセスポイントを作成し、Saunalahti.fiの場合には、APNでINTERNET(USERやパスワードはなし)、MMSの設定として、APNでmms(USERやパスワードはなし)、URL:http://mms.elisa.fi の入力だけで、スマートフォン単体でのメール送受信やアプリを介したデータ通信ができます。(Saunalahti.fiのHPにもAndroid端末向けのAPN設定情報があるのですが、僕の場合それではダメで上記の設定だけでいけました。)Pocket Wifi Sの場合には、テザリング機能のON/OFFは最初からデスクトップ画面にその機能と連動したウィジェットがあるので、データ通信設定がうまくいっていれば、このウィジェットからテザリングをONするだけで、無線のモバイルルータとしてラップトップPCのネット接続も使えるようになります。(ヘルシンキとトゥルクの間のVRの車内で僕はMacBook Airをこの手を使ってネットに接続していました。)

プリペイドSIMカードに含まれた料金分だけに限ってデータ通信ができるということは、様々なメリットがあります。もちろんテザリング機能を使ってラップトップPCをネット接続できる点は便利ですが、それ以上にPocket Wifi Sにある様々なアプリを使って、速やかにこちらが欲しい情報を得られることの効果は絶大です。例えば、今回の場合、WorldMateというアプリにすべての旅程を登録しておきました。飛行機の時間やホテルの場所などを逐一このアプリは教えてくれます。Googleのマップと連動したTripAdvisorなどのアプリがあれば、地元の施設情報なども確実におさえられますし、道に迷うことは一切ありません。Androidにデフォルトで入っている時計というアプリはアラームだけでなく、その時間の地元の天気状況についても知らせてくれます。個人的に一番役だったのはGoogle翻訳のアプリ。今回の出張でも僕はいつもと同じように毎日地元のスーパーで買い物をして自炊していましたが、エストニア語やフィンランド語はわからないので、そうしたときにちょっとした商品にある単語を調べる際にこのアプリが役立ちました。(Google翻訳について文章の翻訳は全く使い物になりませんが、緊急時に単語帳代わりにはまぁ使えるかなといった感じです。)

こうしたことは、データ通信ができるからこと得られるメリットです。テザリング機能を含めて考えてみると、5年前には「海外でもデータ通信が使えれば便利になるだろうに…。」と夢に思い描いていたことが、ようやくSIMロックフリーでテザリング機能を備えたスマートフォンの登場で実現したといった感じです。僕は国内ではiPhoneを愛用しているので(…iPhoneを手放せない理由は北欧語の辞書アプリが充実しているためです…)、スマートフォンを2台所有することになってしまいましたが、もし海外と日本とを往復する機会の多い方で、これからスマートフォンを購入する予定がある人には、SIMロックフリーでテザリング機能をもった端末(…格安なPocket Wifi Sでも良いのですが、もし端末一括購入に資金的余裕(40000円ほど)があるならば、バッテリの持ちがよくや処理速度のはやいイー・モバイルのHTC Ariaなどその後、HTC Ariaは携帯回線の旧規格であるGSMには850/900/1800/1900MHzの各帯域で対応しているため問題なく海外でも使えるのですが、HSPA/W-CDMAという高速データ通信を可能にするような規格にはイー・モバイル独自の1.7GHzしか対応しておらず、無線モバイルルータとして海外で高速通信を行うことはできなさそう…であることがわかってきました。Pocket Wifi Sの場合には、HSPA/W-CDMAについては1.7GHzと2.1GHzに対応していて海外での3G通信にも対応する可能性が大きいです。ということで低機能でもPocket Wifi Sで決めうちでしょうか)を1台所有しておくと、海外での活動をより充実したものにできる…と、今回の僕の経験から確信しました。

2010年10月23日 (土)

新い住み処とiPadに関する発言の補足

次の新しい発言をする前に、先日の二つの発言をつなぐ補足を。iPadを仕事に使う際、PCに慣れた方がもっとも戸惑う点は、「USBメモリなどを使わずにPCとのファイルのやりとりをどうするのか?」という点でしょう。僕の場合、Dropbox、iDiskといったオンラインストレージを媒介させてファイルのやりとりをするようにしています。PCで作成したファイルはとにかく一切合切なんでもかんでもオンラインストレージに放り込んでおき、ネットワーク環境下にあるiPadから必要なファイルを取り出す…といった感じです。というわけですので、iPadの性能も、魅力も、それはネットワークに接続されていればこそのものであると言える。僕が愛用しているiPadは3G回線のないWiFiだけのものです。取り急ぎ、自宅と研究室には無線LAN環境を構築、出張も無線LAN環境の確保されている新幹線を多用します。(東京出張は、必ず無線LANのできるN700系のコンセントがある窓側の席。エクスプレス予約会員になれば、運賃も安いです。)町中で無線LAN環境のないところでのネット接続は、緊急避難的にイー・モバイルのPocket WiFiを使います。そうすることで、ほぼどこでもiPadはネットワークに接続されたかたちでその力を発揮できます。


そんなiPadを使っている僕が、バブル全盛期の頃に建てられた中古マンションを購入したとき、最初に頭のなかをよぎった不安は、「とりわけ頑丈な鉄筋コンクリート造りの建物のなかで、いかにして家庭内ネットワークを築くか?」ということでした。昭和末期の建物は、地震の到来を予想してつくられていても、21世紀のネットワーク時代の到来までは予期してつくられていなかったわけですから。しかしその不安も杞憂に終わりました。新たに引っ越した部屋は、建物の3階・4階を貫くメゾネット構造なのですけれども、光ケーブル回線は4階にしか来ていません。そこで昔から使い続け(…リコールとなった…)AppleのTimeCapsuleを有線でモデムにつないで、あとはAirMac Express ベースステーション with AirTunesを、TimeCapsuleから発信される無線の中継局として2つ立てました。1つは設置場所に試行錯誤を重ねて3階にある僕の書斎の直上にあたる4階の場所に立て、もう1つは液晶テレビとそのテレビにつなげているMac miniのネットワーク接続用にテレビ付近に立てました。AirMac Expressはコンセントに直づけできるので、中継局として適切な場所に簡単に移動させることができます。(海外出張の際にも、滞在先の部屋を無線化する目的で僕は必ずAirMac Eapressを持参します。)ですから、ちょっと古い建物で無線LAN環境を構築することをお考えの方があれば、移動も簡単、値段もお手頃なAirMac Expressを試されてみてはいかがでしょうか。


2010年10月22日 (金)

Back to the Macの前に

先日Back to the Macと題されたAppleの新製品発表会がありましたが、その趣旨がiPhone→iPadの技術を再びMacにフィードバックさせるというものならば、このブログでも新しいMacについて語る前にiPhoneやiPadの話をしておくべきでしょう。この夏にブログの更新をサボっていた間、僕の身近にあって重宝した道具は、ほかならぬiPhoneとiPadです。iPhoneは3Gを二年近く使い続けていましたが、バッテリの持続時間が短くなってきたことと、最近のiOS4に対応したアプリケーションの快適な処理に限界を感じるようになってきたので、この夏にiPhone4へ機種変更しました。(だいぶ待たされましたが。)iPadは今年6月には入手して、授業や出張など、仕事にどれだけ使えるのかトライアルを続けてきました。その結果、この10月現在、授業や講演、出張といった外での仕事のほとんどを、iPhoneとiPadの二つを連携させることでこなすようになっています。

iPhone4のメリットは個人的にその処理速度のはやさにあります。最近はAndroidをOSとして搭載したスマートフォンが数多く発売されていますが、スウェーデン語辞書(Norstedts engelska ordbok pro)、デンマーク語辞書(Gyldendals røde engelsk ordbog)、ノルウェー語辞書(Kunnskapsforlagets engelsk blå ordbok)と、現代北欧を代表する三カ国語の辞書も、それぞれしかるべき出版社のものがアプリケーションとしてiOS版で出揃ったので、北欧語で仕事をしている者としてはiOSを搭載したデヴァイス以外の選択肢は考えられません。問題はあって、Norstedts engelska ordbok proなどは現状でマルチタスクを実現したiOS4でしか稼働せず、iPadに搭載されているiOS3.2やiPhone 3Gなどに搭載されているiOS3レベルでは動きません。GyldendalやKunnskapsforlagetも、iPhone 3Gで動くは動くのだけれども快適な検索にはほど遅さ。それがiPhone4ならば、実に快適にインクリメント検索をこなしてくれています。片手の操作で北欧三カ国語をサッと検索できるというのは、今から10年ほど前では考えられなかった夢のような話です。(他にも、スキャナとして使えるカメラとか、これぞ「ナレッジワーカの十徳ナイフ」といった感じです。)

ただしiPhoneだけではどうしようもない部分もあります。例えば、論文の閲覧です。こればかりはiPhoneの小さな液晶ではどうにもなりません。ここで重宝するのがiPad。iPadはタブレットデヴァイスとしては大きすぎるとよく言われますけれど、PDFで論文を読んだり、Pagesで書類を書いたり、Keynoteでプレゼンをする身にはこのサイズがちょうどよい。この夏、体調が悪かったときに、ソファーやベッドで横たわりながらよく使っていたのは、ほかならぬiPadでした。iPadはiPhoneと比べると処理速度は圧倒的に速く、MacBook Airと比べるとバッテリ駆動時間が圧倒的に長い。出先でのちょっとした仕事をこなすなら仮想キーボードで十分に文章も打てますし、薄いので嵩張らないから、もし長文を書いたり注釈をつけたりという煩雑な作業が必要のない出張ならiPadだけで十分です。授業や講演の際のプレゼンも、処理速度がはやく、バッテリ駆動時間が長いiPadに移行しました。(iPadのKeynoteには、画面を指で長押しすると赤い点がでてくるポインタ機能も付いています。)ただし問題もある。OSが現時点ではマルチタスクのできないiOS3.2ということ、画面分割して複数のアプリケーションを同時に使えないということです。例えば、辞書を閲覧しながら、PDFの論文を読んだり、Pagesで文章を書くことはできません。この点、僕が感じているiPadの一番不便なところです。

そこで相互補完的にiPadとiPhoneを連携して使うことにしています。文書の閲覧や執筆にはiPadを使い、Webや辞書などレファランス目的でiPhoneを使う…といったようにです。例えば、講読の授業のときなど、この10月以降、僕はときに左手でiPadとiPhoneの二つを持ちながら、右手でそれを操作しています。このような芸当がなぜできるのかといえば、iPadにApple純正のケースをかぶせているため。純正ケースは安っぽい…という評価がありますが、汚れてくれば水洗いもできてしまう優れもの。おそらくスタンド機能をもったケースとしては最薄、最軽量なのですが、それがポイント。このケースをつけるとiPadの液晶画面の四辺に縁がとれますが、この縁にiPhoneをひっかけ、左手だけでiPadとiPhoneを二台もちする。そうするとiPad上にテキストを見ながら(…ほとんどのテキストはPDFであり、PDFにメモやアンダラインを書き込めるソフトを使えば、授業の内容も適宜メモできます…)、テキストに出てくる言葉などは、iPhone上の辞書やSafariで検索する…という芸当が可能になります。軽いので二つ持ちしても、それほど負担ではありません。(iPadとiPhoneの連携は、擬似的に画面分割とマルチタスクにするというだけでなく、iPhoneとiPadをBluetoothでつなげ、iPhoneのカメラで撮影した写真をiPadと共有することなども便利です。)

iOS4で実現されたマルチタスクですが、結局のところiPadやiPhoneは画面分割できないので、逐次アプリケーションを閉じて開く操作を繰り返さなければなりません。これはいわば、川のような思索と執筆の流れを分断させてしまうということであり、ナレッジワーカの道具としては深刻な問題とも言えます。そのような問題を抱えていますが、今のところiPadとiPhoneを二台もって両者を相互補完的に扱いながら、そうした問題を乗り越えようとしています。iPadはトイレの中やベッドの上でも気軽に使えるデヴァイスですから、おそらく一日の生活のなかで最も接している時間の長い道具。一頃ネットブックが流行りましたが、もしネットブックを買うぐらいのお金があるならば、処理速度もバッテリ時間も長いiPadのほうがお薦めだと思っています。(…とは言っても、僕の周りではまだ誰も買ったりしていませんけどね。仮想キーボードはクセがあるので、もしキーボードが絶対必要という人にのみネットブックやラップトップをお薦めします。)話にまったくのオチがありませんが、今日のところは、これでおしまいにします。そろそろ次は引越で新調した家電関連のネタでいってみようかな。

2010年6月 7日 (月)

iPadをめぐる脳内妄想〜ある技術革新の歴史的位置について

巷ではiPadが発売されたということで、日本全国の同業者から「古谷さん、iPadはどう?感想を聞かせて?」という問い合わせが相次いでいる…(笑)。いやはや諸事情が絡んだため、僕はまだiPadを手に入れてはいない。本末転倒ではあるが、Apple純正のケースやVGAアダプタだけは届いているだけれども。というわけで脳内でiPadが手元にあることをイメージしながら、iPadについて僕が思うところを述べてみようと思う。

ここ数年の個人的な経験を踏まえて言うのだが、iPadは何も背景のないところから突如として創造されたのではない。最近のiPad 狂騒曲を扱うマスコミは、電子書籍の普及と出版業界の変質のことばかり報道しているが、それはあまりにも単眼的にすぎる。iPadは電子書籍端末として開発されたものなどではない。僕はこのiPadという道具はこれまでに存在した二つの道具の経験を踏まえて2010年という時期に満を持して登場したのだと思っている。ここで言う二つの道具とは、第一にタブレットPC、第二にiPhone(ないしiPod touch)である。

このブログを昔からご覧になっている方ならご記憶だろうが、僕は4〜5年ほど前から講義・講演でのプレゼン用にタブレットPCを用いてきた。iPadと比べれば重いし、筐体デザインも無骨だし、バッテリのもちも悪い。だからiPadが発売された今となっては、タブレットPCは前世紀の遺物といった感が拭えない。僕はタブレットPCを無線LANネットワークに接続させるだけでなく、無線でプロジェクタに接続させてきた。そうすることで躍動感のあるプレゼンにタブレットPCは最適のデヴァイスであると考えていた。

おおよその僕の見立て通りタブレットPCは働いてくれたけれども、タブレットPCは二つの「重さ」につぶされてしまった。一つは筐体自体の重さ、二つはWindows XPという基本ソフトウェアの重さである。重量1.5kgほどのタブレットPCを抱えながらの90分間ほどの講義は密かに僕の筋力アップに役立ったし、90分間ほどの講義のあとに僕は知的作業の結果としてではなく、左腕に溜まった乳酸の結果として疲労を感じていた。タブレットPCは疲労以上にいらつきを僕に覚えさせるものにもなった。それはWindows XPというOSの重さによる動作のもたつきによるところが大きかった。タブレットPCは、デスクトップ・ラップトップPCむけのOSをそのまま搭載してしまったがために、無駄な機能が多くて寸胴な道具になってしまったのである。

一時代を築いたWindowsという基本ソフトの将来がどうなるかは今回の発言の趣意ではないので論評は控えるが、少なくとも携帯端末用の基本OSのトレンドからは排除されていくだろう。すでにその兆候は、軽快と安定を求めるスマートフォン用の基本ソフトからWindows Mobileは徐々にそのシェアをAndroidやiPhone OSに奪われつつあることから覗える。僕たちのような人文系のナレッジワーカが求めるところは重厚長大な仕様ではない。「重さ」から「軽さ」へ。確実に携帯端末用の基本ソフトのトレンドは変わりつつあり、iPadはこの流れを決定づける道具に位置づけらることになるだろう。

(一頃巷を賑わせたネットブックと呼ばれる格安なラップトップPCの将来も、Googleが開発を進めているChrome OSのようなネットワークに接続されたクラウドコンピューティングを軽快にこなすオープンソースソフトの普及にかかっているだろう。MacOS Xにせよ、Chrome OSにせよ、その根幹はLinuxカーネルで構築されていることを思えば、L.トーバルズの考えた道が着々と21世紀のコンピューティング界に敷かれつつある。)

さてiPadの前史に位置づけられるもう一つの道具は、言うまでもなくiPhoneである。その前史を2001年のiPodの登場まで遡っても良い。僕はS.ジョブスという人の未来に対する構想力を推し量ることは毛頭できないけれども、iPadは、少なくとも2001年のiPod、2004年のiTunes Store(当初はiTunes Music Store)、2007 年のiPhoneという三つのステップを踏んで開発された、21世紀の最初の10年を締めくくるAppleなりのパーソナルコンピューティングの総括にあたる道具である。iPodが登場した当初は、それは単なる携帯用デジタルオーディオ機器ぐらいにしか映らなかったが、iTunes Storeが整備され、それが単に音楽配信だけではなくアプリケーション配信も行うようになっていった頃から、何となく「Appleは何か壮大なことを計画しているのではないか?」と思ってはいた。iPodはその後iPhone OSのテストベッドに位置づけられるiPod touchへと発展し、iTunes Storeにおけるソフトウェアの資産とiPod touchにおけるハードウェアの資産が融合するところで、満を持してiPhoneが登場した。iPhoneが革新的だった点はタッチパネル操作という新たなインターフェース技術を普及させただけではない。革新的なハードウェアをiTunes Storeという膨大なインフラ空間で相互補完するシステムを完成させたことこそが重要である。

しかしそのiPhoneさえ、iPadの前座でしかなかった…のかも知れない。iPhoneの登場以来、iTunes Storeには人文系ナレッジワーカの使用に耐えうる数多くのアプリケーションが揃った。そしてiPhoneの登場以来、iPhone OSは数度のアップグレードを果たして充実の度合いを高めた。(未だマルチタスク機能が実装されていないが、この機能は明日・明後日くらいに発表されるかも知れないiPhone OS 4.0で実装されていくに違いない。)そして何より、iPhoneの普及によってタッチパネル操作という新たなインターフェースが広く世の中に普及することになった。iPadはそうした前史を引き継いで世に出た。「iPadは大きなiPod touch、大きなiPhoneでしょう。」と言う人がいる。以上のような前史を踏まえるならば、それは事実である。しかし、iPod touchがそれまでのiPodとは異なる、iPhoneがそれまでのiPod touchとは異なる付加価値をもって世に受け入れられたように、iPadもまたiPhoneやiPod touchとは異なる付加価値をもった道具となっている。その付加価値は、第一にキーボードやマウスといった「敷居の高い」インターフェースではなく、タッチフェイスという直感的に扱えるインターフェースをもち(…ただしこのインターフェースは、身体的障害者には依然として「敷居が高い」ことを忘れてはならない…)、第二にiPhoneやiPod touchよりも大きな液晶画面を有していることから導き出されるものだ。

その付加価値がもたらす成果は、一言で言えば、パーソナルコンピューティングの革新ではないか。僕は1994年から本格的にパーソナルコンピュータを使ってきたけれども、それから15年以上を経てもコンピューティングの方法に根本的な変化はなかった。21世紀も10年が過ぎようとした今、ようやくその方法が変わるのではないか…と、まだ見ぬiPadでこなす仕事の数々を脳内で想像しながら、期待ばかりが膨らんでいる。今日のところはまだ現物が手元にないので、iPadの話はここまで。iPadが手元に届いた暁には、具体的なアプリケーションの数々を紹介しながら、人文系ナレッジワーカ(とりわけ欧米語と日本語を往来する必要のある者)にとってのiPadの有用性を発言してみたい。で…いつ届くのだろう?

2010年2月 1日 (月)

2010年の私的手ぶら通勤スタイル

体中が痒くて仕事にならないので、気分転換に物欲系の戯言を。昨年のクリスマスにクリスマス・プレゼントがわりに申し込んだPiTaPaカードがようやく届いた。(PiTaPaは関西圏の私鉄や地下鉄、バスなどで使えるポストペイ・タイプの非接触ICカード。)大阪で生活をするようになって9年目にしてようやく僕の通勤スタイルもこれで一気に「近代」化を迎えた。

このPiTaPaカードの導入にあたっては、2010年なりの手ぶら通勤スタイルを見越していた。大阪モノレールも、阪急バスも、大阪市営地下鉄も…「ピッ」と改札を抜けるスマートな通勤姿に憧れて、すでに昨年末の時点でCase-MateのiPhone 3G/3GS ID caseを用意していた。明日からはこのケースにPiTaPaを仕込ませたiPhoneをかざして「颯爽」と改札口を通過するように…なるんだろうか…なるはずだ…なってみせる。

2010年の手ぶら通勤スタイルは、この非接触ICカードを仕込ませたiPhone主体にデザインする。iPhoneの辞書アプリが日々充実してきている話は前の発言でしたばかりだが、今年は手書きのメモ帳を持つことを完全に辞めよう。咄嗟の手書きメモはiPhoneでもとれ、とったメモはEvernoteへ画像保存する。読みかけの論文はPapersに仕込んで読める状態にしておき、ワードやパワーポイントの修正はDocuments To Go Premium Editionに任せる。(パワポを修正できるのは、現時点でDocs To GoのPremium Editionだけだ。)閲覧だけで良いならDropboxやMobileMeなどのオンラインストレージにファイルを保存しておけば十分だ。

もし研究会などでプレゼンテーションが必要な場合は、OptomaのPK102というポケットプロジェクタを、iPhoneとは別のもう一つのポケットに潜ませる。このプロジェクタ、輝度が10ルーメンと信じがたいほど暗いが、その大きさはiPhoneと同じ程度という代物。PK102とiPhoneをケーブルでつなげ、あとはTV出力が可能な画像アプリケーションを起ちあげてパワーポイント形式やPDF形式のファイルを映し出せば、ポケットに入るiPhoneとPK102だけで「手ぶら通勤&プレゼンGO」も…理論的にはOK…あくまでも理論的にはね。(いまだにこのPK102を僕は研究会などで使ったことはなく、夜の阪急バスのなかで試しにiPhoneに溜め込まれた子供たちの写真のスライド上映会をしただけ…汗、汗。出力映像がかなり弱々しく暗いんだ…このPK102。研究会を夜の阪急バスのような暗〜い車内のようなところでやるならば、はっきりと映るんだろうな…汗、汗。)

2010年の手ぶら通勤スタイルは、万能ツールの趣を呈してきたiPhoneのほかに財布、ペンケースに差しこんだLAMY2000とキーホルダで決めうち。(文房具好きの間で古典的銘品とされているLAMY2000だけれども、今ならAmazon.co.jpでマルチボールペンL401が定価の半額以下の値段で買える!)キーホルダには鍵のほかにUSBメモリとシャチハタのプチネームを掛けることを忘れない。手ぶら通勤とはいえ方々の職場で捺印は必須だから、プチネームはとても重宝している。事務方の皆さんのなかにもこれを重宝されている方がいらして話題に事欠かない。

2010年1月29日 (金)

デジタル化時代の歴史地図

かつて山川出版社から公刊されている『世界史地図ソフト』のことを話題にしたことがある。あれは「詳説世界史B」にある歴史地図をそのまま図像ファイル化して網羅したCD-ROMであり、いわばもとよりあったアナログな地図をPC上での編集が可能な図像データへと変換したものに過ぎなかった。とはいえ、それでもPCを使って授業資料を作成する者にとっては有用性の高い画期的なソフトだった。

今日、僕の手元にスウェーデンのGleerups社が昨年公刊したDigitala historiska kartorが届いた。現物を一切見たことがないままで発注することには躊躇したが、実際に手元に届いたものの中味を見て、その出来のよさに驚かされた。この驚き、「久々に買い物で嗅覚が効いた!」という感じで心地よい。

スウェーデン語でDigitala historiska kartorという場合、(1)古地図をデジタルデータ化したものと、(2)山川の『世界史地図ソフト』のようにGymnasiumレベルの歴史の授業で使われる授業資料としての歴史地図をデジタルデータ化したものとに別れる。ここで紹介するものは(2)のものだ。版権の問題もあろうからブログ上でこの地図を公開することを控えるけれども、ホモ・サピエンスの生活圏拡大から、ヨーロッパ統合の進展(EUだけでなくEFTAも扱われているところがやはり北欧産だ!)やユーゴ紛争(デイトン合意後のC.ビルトの活躍をみればやはりスウェーデン産だ!)あたりまで、60強の地図データがパワーポイントのファイルで作成されている。

歴史地図がパワーポイントで作成されているというところがこのCD-ROMのミソ。パワーポイントであればこそスライド&アニメーション処理でもって、同一地図の上に複数の地理情報を重ね、それを動かすことで地図に見られる歴史事象の「動態」的変遷を視覚化して伝えることができる。例えば、"Homo sapiens spridning"と題されたファイルを見ると、例のアフリカ大陸の大地溝帯あたりくらいから始まって1万年ほど前に南アメリカ大陸へと至るホモ・サピエンスの生活圏拡張の様子が、8枚にわたるパワーポイントのスライドで段階をおって示されている。

北欧史関連で嬉しかったのは、バイキング活動の様子と近世スウェーデンのバルト海世界における広域支配圏の変遷の様子を示したスライドの出来だ。とりわけ前者は、ノルウェー・デンマーク・スウェーデンそれぞれを故地としたバイキング活動の地理的展開が示されており、これほど理解しやすいバイキング活動の地図を僕は見たことがない。

おそらく我が国でも志の高い高校・予備校の地歴科の先生方によっては、個人的にパワーポイントを使って上記のような歴史事象の地理的変遷に関する「動態的」理解を目的とした授業資料を作成されていらっしゃるかも知れない。しかし、こうしたファイルを作成するには相応の負担と実力が必要となるから、日本全国の先生と学生にあまねく行き渡っているものではないだろう。教育においてそれを講ずる側、受ける側、それぞれに格差がうまれる可能性はなるべく減らされねばならないと思うとき、もしこのような授業資料が一般頒布され、日本全国で世界史を教える先生と世界史を学ぶ生徒のみんなに行き渡ったら、どんなに有意義なことだろうかと僕は考える。

さらに僕は、先日発表されたiPadのような比較的安価なタブレット・デヴァイスを電子ノートや電子教科書として機能させるような教育手法の革新が到来する日をも夢見つつ、そうしたものに載せるべき教育効果の高いコンテンツとして、このスウェーデン語によるDigitala historiska kartorを眺めている。

2010年1月14日 (木)

北欧語学習者必携ツールとしてのiPhone

___2 かつてこのブログで「デンマーク語の夜明け」とか題して、iPhone上で動作する辞書アプリケーションとしてPolitikenのデンマーク語・英語辞書を紹介したことがあったと思う。それは所収語彙数32500語程度で、意味を調べるならばそれなりに使えるアプリだった。しかし文法事項が記載されることはなく、それは単語帳のようなものだった。けれどそもそもデンマーク語の電子辞書などなかったものだから、そうした状況において、それはデンマーク語学習に「夜明け」を告げる存在だった。

これはあくまでもiPhoneないしはiPod touchで動作するアプリケーションの話だが、昨年末iTunesのApp Storeに登録されたGyldendalのデンマーク語・英語辞書がすごい。所収語彙数の違いに応じて大中小(それぞれ3900円1200円600円)があるのだが(…3900円の大辞典では175000語を所収している…)、これには名詞の性・数や動詞の変化などについても情報が記載されているし、例文の記載は少ないけれど熟語表現も掲載されている。さらにこのGyldendalは、ネットワークに接続されていないでも、オフライン検索ができる。

iPhoneの辞書アプリケーションの多くは、検索インターフェースのみをアプリとして提供し、検索する際には逐次サーバに蓄積された辞書データ本体にネットワーク接続して情報を得るものが一般的だ。そうしたオンライン検索型辞書アプリケーションの代表が、スウェーデンの言語・民俗研究所が移民向けに公開しているオンライン辞書LexinをiPhone上から検索するLexikonだ。Lexikonについては、ネットワーク検索の母体になっているLexinの辞書としての出来具合が実に秀逸なので、文法事項はもとより、熟語表現、例文紹介なども的確で、スウェーデン語学習者にとってこれ以上のツールはないと僕は思う。しかしLexikonで検索するには、携帯電話回線にせよ、無線LAN回線にせよ、常にネットワークに接続されている必要があり、例えば飛行機のなかなどネットワークから遮断された環境では検索できない点が難点である。

(ちなみにLexikonは、英語のほかに、アルバニア語、アラビア語、ボスニア語、クロアチア語、クルド語、フィンランド語、ギリシア語、ロシア語、セルビア語(ラテン表記・キリル表記)、ソマリ語、スペイン語、トルコ語とスウェーデン語を検索できる。この言語の種類を見ると、おおよそスウェーデンの移民行政において、どういった言語圏からの移民が多く受け入れられているのかを判断することができよう。)

(日本語、英語、フランス語、イタリア語などについては辞書データ本体をiPhone内に蓄積して、オフラインでも検索できる秀逸な電子辞書ソフトは存在する。この発言の冒頭に掲げた写真は、僕が仕事関係でよく使っているアプリケーションを集めたiPhoneのスクリーンショット画面。辞書関係ではLexikon、Gyldendalときて英和辞書はウィズダム、国語辞書は大辞林。ウィズダムや大辞林など、物書堂が開発している辞書アプリは、その検索インターフェースがすばらしい。そしてiDicは、学部生の頃からコツコツと買い集めてきたEPWING形式の辞書データを検索するアプリケーション。iDicにはデンマーク語、スウェーデン語をはじめノルウェー語、フィンランド語、オランダ語、ドイツ語、フランス語、スペイン語の辞書、英語についてはリーダーズやランダムハウス、国語については広辞苑、百科事典については平凡社・小学館・ブリタニカ・ウィキペディアなどを仕込ませている。これは20年近い収集の成果。貧しかった学生時代に貯金して買っておいた資産が今になって生きている。ラテン語は、ネット上で公開されているLewis and Shortを基にしたLexidiumという辞書を取り急ぎ使っている。)

日本ではスタンドアローンで使用可能な電子辞書と言われる検索ツールが異様な進化を遂げており、言語学習者にとっての神器とされている。IT分野にあって日本は「ガラパゴス」化している(…世界の主たる潮流から隔絶されているがゆえに、いくつかの機器に関しては異様なまでの独自的進化がみられる)と言われるが、電子辞書市場もまたその類の産物と言えるだろう。例えば、スウェーデンやデンマークにあって、日本における電子辞書の類を僕は見かけることはない。だいぶ以前、スウェーデンの友人に「辞書はどうしているの?」と聞いたときには、「LexinやSAOBなど、ネットワークで検索できる辞書サイトで確認しているよ。」との答えが返ってきた。彼らにとっては、ネットワークに常時接続された環境は普通のものだった。

しかし日本は長らくそうではなかった。電子辞書同様に「ガラパゴス」的進化を遂げた携帯電話が日本語という特殊な言語環境を前提とした市場で発展したために、この市場で受容の少ないスウェーデン語やデンマーク語のような特殊文字を使う言語の検索は「文字化け」の問題で使いものにならず、従ってネットワークに接続された辞書検索は一般的にならなかった。日本では「オフライン検索ができなければ電子辞書ではない。」といった意識は相当に根強く、それゆえ今でも「英語やドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ロシア語、中国語のようなデンマーク語やスウェーデン語の電子辞書がない」という不満が学生たちの間からよく漏れ聞こえてくる。(もちろんネットワークへ接続する投資さえ惜しまなければこうしたことは一切問題にはならないが、その場合は通信料が問題となる。)

「オフライン検索ができなければ電子辞書ではない。」という不満への対処策は、これまでにも一つだけあった。今となってはかなり古い規格となってしまったが、EPWING形式による辞書データをPCやPDAにコピーして検索するという方法だ。かつては三修社からこの形式による十二国語辞書(旧版)が発売されており、僕は長らくここに所収されていたデンマーク語やスウェーデン語の辞書データを様々な機器にコピーして使用してきた。しかしこの方法をひろく学生たちに薦めることは今ではできない。なぜならばEPWING形式による十二国語辞書は、その後辞書データの形式を変えてしまい…そしてそもそも今ではこれ自体が絶版になってしまって、入手することは困難だからだ。

こうした状況に鑑みれば、オフライン検索のできるしかるべき文法事項が記載された辞書アプリケーションとしてGyldendalの登場したことが、いかにすごいことなのかを理解していただけると思う。スウェーデン語に関しては、残念ながらオフライン検索のできるしかるべき文法事項が網羅された辞書はない。それゆえ常にネット環境を維持してLexikonを使うか、かつて三修社の十二国語辞書に所収されていたEsselteの辞書を何とか購入して、自ら購入したデータをiPhoneにコピーして使うしか方法はない。(スウェーデン語について、オフライン検索できる電子辞書が発売される可能性はないとは言い切れない。Norstedtの辞書データはオンラインで検索可能なように公開されており、世界的なiPhoneの市場規模に目をつけたソフトウェア開発会社があれば、その辞書データを利用してGyldendalのようなものは作り出せると思えるからだ。)

いずれにせよGyldendalの辞書が登場したことで僕たちはオフライン検索できるデンマーク語の電子辞書を手にした。これで「デンマーク語は電子辞書がないから勉強しにくい」という言い訳は通用しなくなったとも言える。(だから学生のみんなは、もっと勉強なさい!)これまで僕は外国語学部でも北欧語の教育に携わる関係上公平を期すために、iPhoneやiPod touchのような特定のデヴァイスの使用を他人に薦めることを避けてきた。しかし唯一の選択肢としてGyldendalの辞書が登場したこれを機会に、少なくともデンマーク語を学習する人に対しては、iPhoneやiPod touchは勉強のための必携ツールであると薦めることになるだろう。(もしスウェーデン語も勉強したいと言うならば、Lexikonを常時使えるように携帯電話回線をもったiPhoneこそが必携ツールということになる。 ちなみにノルウェー語ならば、iPhoneでオフライン検索できる辞書としてCollins のノルウェー語辞書が1200円で売られている。)

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