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2010年1月14日 (木)

北欧語学習者必携ツールとしてのiPhone

___2 かつてこのブログで「デンマーク語の夜明け」とか題して、iPhone上で動作する辞書アプリケーションとしてPolitikenのデンマーク語・英語辞書を紹介したことがあったと思う。それは所収語彙数32500語程度で、意味を調べるならばそれなりに使えるアプリだった。しかし文法事項が記載されることはなく、それは単語帳のようなものだった。けれどそもそもデンマーク語の電子辞書などなかったものだから、そうした状況において、それはデンマーク語学習に「夜明け」を告げる存在だった。

これはあくまでもiPhoneないしはiPod touchで動作するアプリケーションの話だが、昨年末iTunesのApp Storeに登録されたGyldendalのデンマーク語・英語辞書がすごい。所収語彙数の違いに応じて大中小(それぞれ3900円1200円600円)があるのだが(…3900円の大辞典では175000語を所収している…)、これには名詞の性・数や動詞の変化などについても情報が記載されているし、例文の記載は少ないけれど熟語表現も掲載されている。さらにこのGyldendalは、ネットワークに接続されていないでも、オフライン検索ができる。

iPhoneの辞書アプリケーションの多くは、検索インターフェースのみをアプリとして提供し、検索する際には逐次サーバに蓄積された辞書データ本体にネットワーク接続して情報を得るものが一般的だ。そうしたオンライン検索型辞書アプリケーションの代表が、スウェーデンの言語・民俗研究所が移民向けに公開しているオンライン辞書LexinをiPhone上から検索するLexikonだ。Lexikonについては、ネットワーク検索の母体になっているLexinの辞書としての出来具合が実に秀逸なので、文法事項はもとより、熟語表現、例文紹介なども的確で、スウェーデン語学習者にとってこれ以上のツールはないと僕は思う。しかしLexikonで検索するには、携帯電話回線にせよ、無線LAN回線にせよ、常にネットワークに接続されている必要があり、例えば飛行機のなかなどネットワークから遮断された環境では検索できない点が難点である。

(ちなみにLexikonは、英語のほかに、アルバニア語、アラビア語、ボスニア語、クロアチア語、クルド語、フィンランド語、ギリシア語、ロシア語、セルビア語(ラテン表記・キリル表記)、ソマリ語、スペイン語、トルコ語とスウェーデン語を検索できる。この言語の種類を見ると、おおよそスウェーデンの移民行政において、どういった言語圏からの移民が多く受け入れられているのかを判断することができよう。)

(日本語、英語、フランス語、イタリア語などについては辞書データ本体をiPhone内に蓄積して、オフラインでも検索できる秀逸な電子辞書ソフトは存在する。この発言の冒頭に掲げた写真は、僕が仕事関係でよく使っているアプリケーションを集めたiPhoneのスクリーンショット画面。辞書関係ではLexikon、Gyldendalときて英和辞書はウィズダム、国語辞書は大辞林。ウィズダムや大辞林など、物書堂が開発している辞書アプリは、その検索インターフェースがすばらしい。そしてiDicは、学部生の頃からコツコツと買い集めてきたEPWING形式の辞書データを検索するアプリケーション。iDicにはデンマーク語、スウェーデン語をはじめノルウェー語、フィンランド語、オランダ語、ドイツ語、フランス語、スペイン語の辞書、英語についてはリーダーズやランダムハウス、国語については広辞苑、百科事典については平凡社・小学館・ブリタニカ・ウィキペディアなどを仕込ませている。これは20年近い収集の成果。貧しかった学生時代に貯金して買っておいた資産が今になって生きている。ラテン語は、ネット上で公開されているLewis and Shortを基にしたLexidiumという辞書を取り急ぎ使っている。)

日本ではスタンドアローンで使用可能な電子辞書と言われる検索ツールが異様な進化を遂げており、言語学習者にとっての神器とされている。IT分野にあって日本は「ガラパゴス」化している(…世界の主たる潮流から隔絶されているがゆえに、いくつかの機器に関しては異様なまでの独自的進化がみられる)と言われるが、電子辞書市場もまたその類の産物と言えるだろう。例えば、スウェーデンやデンマークにあって、日本における電子辞書の類を僕は見かけることはない。だいぶ以前、スウェーデンの友人に「辞書はどうしているの?」と聞いたときには、「LexinやSAOBなど、ネットワークで検索できる辞書サイトで確認しているよ。」との答えが返ってきた。彼らにとっては、ネットワークに常時接続された環境は普通のものだった。

しかし日本は長らくそうではなかった。電子辞書同様に「ガラパゴス」的進化を遂げた携帯電話が日本語という特殊な言語環境を前提とした市場で発展したために、この市場で受容の少ないスウェーデン語やデンマーク語のような特殊文字を使う言語の検索は「文字化け」の問題で使いものにならず、従ってネットワークに接続された辞書検索は一般的にならなかった。日本では「オフライン検索ができなければ電子辞書ではない。」といった意識は相当に根強く、それゆえ今でも「英語やドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ロシア語、中国語のようなデンマーク語やスウェーデン語の電子辞書がない」という不満が学生たちの間からよく漏れ聞こえてくる。(もちろんネットワークへ接続する投資さえ惜しまなければこうしたことは一切問題にはならないが、その場合は通信料が問題となる。)

「オフライン検索ができなければ電子辞書ではない。」という不満への対処策は、これまでにも一つだけあった。今となってはかなり古い規格となってしまったが、EPWING形式による辞書データをPCやPDAにコピーして検索するという方法だ。かつては三修社からこの形式による十二国語辞書(旧版)が発売されており、僕は長らくここに所収されていたデンマーク語やスウェーデン語の辞書データを様々な機器にコピーして使用してきた。しかしこの方法をひろく学生たちに薦めることは今ではできない。なぜならばEPWING形式による十二国語辞書は、その後辞書データの形式を変えてしまい…そしてそもそも今ではこれ自体が絶版になってしまって、入手することは困難だからだ。

こうした状況に鑑みれば、オフライン検索のできるしかるべき文法事項が記載された辞書アプリケーションとしてGyldendalの登場したことが、いかにすごいことなのかを理解していただけると思う。スウェーデン語に関しては、残念ながらオフライン検索のできるしかるべき文法事項が網羅された辞書はない。それゆえ常にネット環境を維持してLexikonを使うか、かつて三修社の十二国語辞書に所収されていたEsselteの辞書を何とか購入して、自ら購入したデータをiPhoneにコピーして使うしか方法はない。(スウェーデン語について、オフライン検索できる電子辞書が発売される可能性はないとは言い切れない。Norstedtの辞書データはオンラインで検索可能なように公開されており、世界的なiPhoneの市場規模に目をつけたソフトウェア開発会社があれば、その辞書データを利用してGyldendalのようなものは作り出せると思えるからだ。)

いずれにせよGyldendalの辞書が登場したことで僕たちはオフライン検索できるデンマーク語の電子辞書を手にした。これで「デンマーク語は電子辞書がないから勉強しにくい」という言い訳は通用しなくなったとも言える。(だから学生のみんなは、もっと勉強なさい!)これまで僕は外国語学部でも北欧語の教育に携わる関係上公平を期すために、iPhoneやiPod touchのような特定のデヴァイスの使用を他人に薦めることを避けてきた。しかし唯一の選択肢としてGyldendalの辞書が登場したこれを機会に、少なくともデンマーク語を学習する人に対しては、iPhoneやiPod touchは勉強のための必携ツールであると薦めることになるだろう。(もしスウェーデン語も勉強したいと言うならば、Lexikonを常時使えるように携帯電話回線をもったiPhoneこそが必携ツールということになる。 ちなみにノルウェー語ならば、iPhoneでオフライン検索できる辞書としてCollins のノルウェー語辞書が1200円で売られている。)

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