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2009年5月28日 (木)

「おおうけ」な幕引き

ウップサーラ大学神学部での最後の日。今回の滞在でコンタクト・パーソンとなってくれたマグヌスとウップサーラでの研究や仕事の話でひたすらしゃべった後は、例によってキッチンに向かいフィーカ(コーヒー・ブレイク)でしめる。この滞在はまさに「フィーカにはじまりフィーカにおわる。」といった感じだ。神学部のみなさん5〜6人と話していたのだけれども、最後のフィーカは「おおうけ」だった。神学部のみなさん相手だから…「ヴェステルオースの大聖堂に行ってヨーハンネス・リュードベッキウスに挨拶してきたよ。」で「ややうけ」。で、ウップサーラ大学のみなさん相手だから…「足がすごく痛くて痛風みたいな症状なんだけど、カール・フォン・リネーは日本酒の説明で飲み過ぎると痛風になるって書いているんだよね。」で…スウェーデン的会話の流れでは「おおうけ」。

一般的に言ってスウェーデン人の日常会話では体の不調がよく話題にあげられ、同情…というよりはお互いの不健康自慢で盛り上がる。今回の滞在で僕は、複合国家の統合理念としてのゴート主義と「スウェーデン」像の展開について調べていたから、最後のフィーカではそうした「研究成果」も踏まえて、ちょっと知的に僕の不健康自慢をしてみたのである。

実際、リネーは18世紀半ばの時点で日本酒について書いている。正確には「日本の öl について」なのだけれども、今のスウェーデン語で「ビール」を意味してしまう öl という単語について言えば、18世紀当時には現在のように下面発酵させて澄んだ黄金色になる「ビール」はスウェーデンには普及していなかったから(…その普及は19世紀後半以降である…)、リネーの時代の感覚で言えば「穀物類を原料とする醸造酒」くらいの意味でとらえなければならない。だから、18世紀の史料を翻訳する際に öl を「ビール」と訳してはならない。で、これが当時の日本の例で言えば、「米という穀物を原料とする醸造酒」…つまり日本酒ということになる。

スウェーデン語で「痛風」は gikt というのだけれども、僕はこの単語をリネーの「日本の öl について」という文章のなかで覚え、記憶に残っていた。リネーは、日本酒について「とても香り高く豊かな甘味をもつ酒だが、飲み過ぎると gikt を引き起こす。」と紹介している。(今、その文章が手元にないのだが、おおよそそのような内容だった。)痛風に関する疫学的研究によれば、アルコールは痛風発作の可能性を高め、とりわけビールはその可能性をもっとも高めるらしい。昨年の健康診断の際「尿酸値が高い。」との指摘を受けていたし、今回の右足親指のつけねが「骨でも折れたか」のように激しく痛んだ症状からして、僕の症状も痛風発作ではないか(…帰国したら病院にかけこもうと思う…)と思っているのだが、それ以上にリネーという人物の(…弟子のチューンベリの日本滞在の前に日本酒に関する文章は書かれているので、おそらくケンペルあたりの日本紹介の文章を通じてだろうけれども…)日本の情報まで網羅した博物学者としての知見、穀物類を原料とする醸造酒と痛風の関係を指摘した科学者としての力量に唸るばかり…足の痛みに唸るどころではない。

(18世紀に外交関係のなかったスウェーデンで日本のことがよく知られていたという事実を思うと、僕たち日本人が中学・高校の歴史で習う「鎖国」とはいったい何だったのか…と思う。スウェーデンがらみで恐縮なのだけれども、そもそも「鎖国」という言葉も17世紀後半にウップサーラで勉強し、スウェーデン外交使節団の一員だったこともあるケンペルの『日本誌』に由来しているんだよね。でも…東アジア世界的文脈ではそろそろ「海禁」くらいの言葉に言い直したほうが良いんじゃないかな?)

そんなこんなで…今日、笑いのうちにウップサーラ大学での日々の幕は閉じられる。神学部のみなさん、ありがとう。ウップサーラを知れて良かった。そして楽しかった。以上。

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