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2009年1月19日 (月)

スウェーデンのエリート教育改革

センター試験、皆様、お疲れ様。さて、高等教育を巡る改革は洋の東西を問わず深刻な問題になっているわけだけれども、スウェーデンでは、僕も馴染みの深いルンドにある学校が、日本でいうところの現代GP(あるいは特色GP)を二つも得たということが報道された。(詳しくは、DNの1月15日付けの記事を読んで欲しい。タイトルは「ルンドがスウェーデンのエリート教育クラスの二つを獲得!」)スウェーデンも例のボローニャ宣言以来の高等教育改革の波に巻き込まれていて、(かくいう僕もそのプロセスの一つに位置づけられるエラスムス・ムンドゥスのユーロ・カルチャーで今度ウップサーラ大学へ教えに行くのだけれども)、スウェーデン高等教育庁のホームページを見ると、様々な改革プログラムの記事が踊っていて、追いかけるだけで大変だ。

今回の記事の肝は、ルンドにある二つの学校(日本で言えば高校レベル)で実験的に物理と歴史のエリート養成クラスが設けられ、そのクラスはそれぞれの分野で大学院博士レベルで研究実績をもつ者が教育を担当するもので、博士レベルの研究実績をもった教員による教育課程であるという点が評価されたという。このプログラムに参加する研究者はそれで単位も得られるし、副産物として高度な研究実績をもった教員による高校教科書の執筆など成果も期待されているらしい。スウェーデンでも博士レベルの研究者の研究機関への就職は非常に困難な状況にあるが、彼らの一時的な就職先と大学学士課程入学前の段階における教員のレベルアップと学生の学力向上を兼ね備えたプログラム。こうした博士レベルの研究者を教育現場にフィードバックさせることで中等教育の向上を見る実験はすでにフィンランドでの成功例が知られているので、これといって目新しいプログラムとも言えないが。

今回、このスウェーデン版GPのモデル校として歴史コースを設定することで選定された学校は、北欧随一の伝統と歴史をもちスウェーデンでも有数のエリート輩出校として知られているKatedralskolanだ。1085年にデンマークの聖クヌート(クヌート大王とは別人、スコーネに権力基盤を置いていた「最後のヴァイキング王」などとあだ名されるスヴェン・エストリーズセンの嫡出子であったクヌート4世)の寄進で作られた北欧最古の学校であって、読んで字のごとく、もとは北欧最初の大司教座が置かれたルンド大聖堂に付属して聖職者養成で知られた。僕はかつてルンド大学歴史学部に留学していたが、その頃からよく博士課程の連中はここに教えに行っていたことを記憶している。歴史学のエリート養成コースがここに置かれたというのは、そうしたルンド大学との深い関係を物語る例と言えるが、とはいえ、歴史教育の重視は、スウェーデンの歴史を回顧することで再びあるべきスウェーデン国民性の陶冶を図るといったようなことでは全くない。

昨年公表された我が国における高校の新学習指導要領の総則で「道徳心の養成」が謳われたことは広く報道されたが、我が国の指導要領をよく読むと、世界史A・Bにおいては日本史を含めた歴史への関心を高めるように歴史教育の内容を充実させるとある。それはそれで僕は個人的に妥当な流れだと思う。日本はあまりにも国史と世界史の違いを意識しすぎた。もとよりスウェーデンにおける歴史教育には国史と世界史の違いはなく歴史という科目しかない。スウェーデンの歴史は広くヨーロッパと世界の歴史の中に置いて教育されるのが当然であった。2005年のボローニャ宣言以来、ヨーロッパ市民の醸成を図るべくEUレベルでの高等教育改革を模索する流れが強化されていることは我が国でも知られていることだが、そうした目的を達成するために、国史と世界史との壁のない歴史という科目が選ばれたことは至極当然だろう。(「歴史学こそ諸学の雄」という話はここでは触れないでおくけれど(笑)。)そうした傾向と関連して興味深いのは、1月15日にルンドの記事が報道された直後、高等教育庁のホームページにおいて「歴史(教育)はさらなる国際化が必要である」との提言が公表されたことである。このことからも推測できるように、現在のスウェーデンで歴史教育重視の傾向は、明らかにヨーロッパ市民の陶冶を目指すボローニャ・プロセスを背景とするものだろう。

しかし、言うは易く行うは難し。歴史教育の国際化は、教育の対象となる時代も地域も概念も多種多様に用意されるというわけだから、これは教育の現場も今まで通りでは対処しきれない。そこで、我らがルンド大学の出番というわけだ。今回のエリート教育改革は一方で優秀な教員の養成という目的があるわけだけれども、ここにスウェーデンの大学というよりは、デンマークとスウェーデンの垣根を越えて北欧の大学として歴史学研究を発展させてきたルンドが選ばれたところが興味深い。(思えばかつてルンド大学にいたときも、今度ウップサーラ大学に行くときも、僕は「日本人の歴史学研究者」というレッテルから逃れようもなく、先方から日本と北欧の歴史(それは交渉史もあれば、史学史もある)を求められるのだけれども、そうした要請の建前には「スウェーデンの歴史には国際化が必要なんだ」という言葉があって、そういう言葉をもらう度に僕はやりがいを感じている。)今回の報道では歴史コースのほかに物理コースもルンドで選ばれているが、ルンド大学には北欧最大とも言われている高エネルギー加速器があって、各国の物理学者が盛んに往来していたように記憶している。となると歴史にせよ、物理にせよ、(あるいは人文学だろうが、自然科学だろうが、)学問分野の如何を問わずスウェーデンの枠を越えるエリートの要請という点が、今回の決定の肝なのかも知れない。

センター試験が終わったばかりだけれども、さぁて、僕らの国はどうしよう (^_-)

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