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2008年6月19日 (木)

「リンネの帝国」への道(2.5)

先日、学術的見地において厚く信頼する後輩のOくんから、長らく疑問に思っていたことについて実に的確な回答を頂き、しばらく頓挫していた山川リブレットの執筆が一気呵成に進み始めました。従って、これからしばらくの間は「リンネの帝国」への道からそれることになります。とはいえ、「リンネの帝国」と密接に関連する、あるいは個人的にはそれへの露払いの位置づけとしているのが今、執筆を進めている山川リブレットです。

もちろん、山川リブレットではリンネのことも終章近くで登場させます。「バルト海帝国の残照」について扱う箇所では、「帝国」原理を思想的に用意したゴート主義の継続という点で、リンネによる「日の沈まぬ地」ラップランド探索などが加わります。「バルト海帝国」の統合理念を用意したゴート主義が18世紀にも継続され、「神から約束された土地」としての「アトランティス・スウェーデン」の解明ということが、リンネの業績の出発点になっていますので。

さて、しばらく僕が悩んでいた問題は、ヴァイキングという名辞の位置づけに関することでした。僕たちの「北欧史」のイメージでは、ヴァイキングという名辞は「北欧史」の原点を飾るものとして絶対的な意味をもつものです。しかしながら、近世「バルト海帝国」に懐胎した歴史認識・歴史区分を見ると、そこにヴァイキングという名辞は登場しません。ゴート主義の言説を見れば明らかなように「異教時代」と「キリスト教時代」が大きな区分であって、しかも、ゴート主義の言説においては「異教」と「キリスト教」が渾然一体となって首尾一貫した論理を構築しています。

ここにヴァイキングを含めて考えるとなると、ヴァイキング(800~1050年)の時代とその前史としてのゴートの時代をどう結びつけるか、これが大きな疑問として残ります。僕は、これまで世界遺産や昨年のユリイカの文章を調べていた経験から、北欧ではキリスト教と北欧神話の世界が融合している歴史認識と歴史叙述がふつうであって、ヴァイキングという名辞は、ナショナルロマンチックな近代的言説、あるいは大陸ヨーロッパと北欧の差違をことさら強調しようとしたときに見いだされた名辞に思えて仕方がありませんでした。そこでO君には、「バイキングという名辞が、北欧の人にとって自己意識の起源として強く意識されたのはいつからか?」というストレートな質問をしてみました。

膨大な学知を有するO君は即座に的確な回答を寄せてくれました。O君曰く、「本来、800~1050年頃の時代は鉄器時代・異教時代というくくりが一般的だったのだが、この時代の遺跡などがナショナル・シンボルとして見いだされていった19世紀半ばの雰囲気を受けて、1870年代に800~1050年代が特別な時代として区分され、ヴァイキング時代・ノルマン時代という区分が一般化した。」と。無論、O君は13世紀に編纂されたサガ群の存在に触れ、アイスランド移住者などについては13世紀当時には特別な意味が求められていただろうという正鵠を射る留保も頂きました。

なるほど、このようにヴァイキングという名辞がナショナル・ロマンティックな雰囲気に基づいた創造であるとするならば、現在のヴァイキング研究の先端的課題が、ナショナル・ロマンティシズム的問題設定の相克という点に置かれるているということも合点がいきます。最近の日本におけるヴァイキング研究の先端はO君たちに任せるとしても、僕もつきあいがある現代スウェーデンの若手・中堅研究者たちが、近世に文献学・考古学的見地を援用して「異教時代」の古代性を回顧しようとした傾向を検討して、従来のヴァイキング・イメージを相対化する研究をしていることも、すぐに理解できました。

ここで山川リブレット(あるいは「リンネの帝国」)に話を戻すと、このようにナショナル・ロマンティックな言説におけるナショナル・シンボルとして19世紀におけるヴァイキング概念の創造を踏まえるならば、「バルト海帝国」の時代における歴史意識は、いわゆるヴァイキング時代も含めて「異教時代」ということで一貫させて考えられるわけです。ここに「バルト海帝国」の前提となる近世の歴史認識(民族の起源認識)に関して、僕の頭のなかでは一つの明確な解答が得られました。ありがとう、Oくん。

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