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2007年6月20日 (水)

もう一つの「日の沈まぬ国」

気分転換させてもらいます。ここのところ、研究者としての自分は、スウェーデン意識の源流を探るということでゴート主義との格闘が続いているわけですが、ちょうど今頃の季節、スウェーデンは白夜の頃ということで、ルードベックのゴート主義から面白い話を一つ発言してみましょう。

そもそも、スウェーデンが「北欧」に位置する国家(ないしは地域)だなんていう意識がどのようにして生まれてきたと思いますか?僕らは、小さい頃から地図や地球儀を見て、「スウェーデンは北にあるな…」と何ら疑念をもつこともなく当然のように思いこんでいるわけですが、そもそも「北」なんていう方位感覚が絶対的なものであると考えることから疑っていく必要があると思っています。

もちろん、北極星やそれを示す北斗七星の存在は古くから知られていたわけであり、そうした感覚と結びつくところでは「北」は確かにあったわけですが、スウェーデンに生きる人たちが、「自分たちは北に住む世界の人間であり、東・西・南の世界に生きる人間とは違うのだ」という明確な自己意識が育まれてきた過程では、白夜の存在も大きかったと近年のゴート主義研究は主張していたりします。

ゴート族の故地としてのスカンディナヴィアの特殊性が語られる際、その論法はスウェーデン以外の地域で育まれた言説を横領し、援用する過程が踏まれることが一般的です。また、ある地域や権力者の特殊性が主張される際、人間が生まれながらにしてもつ自然や方位の感覚に訴えかけられる事例が見られます。例えば、太陽王ルイといった表現は、ギリシア神話における太陽の神アポロンのアナロジーとして語られるといった形。世界を照らす太陽に権勢を例える論法は、スウェーデンの特殊性を語る際にも活用されました。

スウェーデンの特殊性を論じる際、自然現象のアナロジーとして利用されることの多かった素材が、白夜です。笑い話ではなく、17世紀から18世紀頃には、真剣に、「白夜は太陽が沈まない」→「スウェーデンは太陽が沈まない」→「スウェーデンは永遠の権勢を約束されている」という論法が存在していて、ルードベックはときの国王カール11世から直々に支援をうけてスウェーデンの特殊性を証明する目的で北極圏の探検事業を行っていたりします。

ルードベックから一、二世代後にウップサーラ大学で活躍した人物が、かのカール・フォン・リンネ(今年はリンネ・イヤーですね)です。彼の業績の出発点は二つの地域の調査事業にありました。スウェーデン北端のラップランドとスウェーデン南端のスコーネの調査です。リンネは、前者の際にはルードベック家のプライベートライブラリーに出入りして、ルードベックがゴート主義を論証するために行った北極圏探検の資料を事前に精査していたと言います。となると、動植物分類法を築き上げ、啓蒙ヨーロッパを代表する文化人とされるリンネも、スウェーデンのウップサーラにたもたれたゴート主義の遺産があってこそ、その業績を出発させることができるということになりますね。

日の沈まぬ国(あるいは帝国)とは、フェリーペ2世時代のスペイン帝国を通称した名辞だったと記憶しています。それは、イベリア半島・アメリカ大陸・フィリピン諸島と…その版図が地球を網羅するゆえに呼ばれた名前であり、一カ所に滞在する人間が太陽が沈まぬ情景を実際に目の当たりにできたわけではありませんよね。でも、スウェーデンの場合は、白夜でまさに太陽が沈まぬことから、一カ所にいながらにして太陽が沈まない…まさに権勢が衰えないということを人間は肌身で感じ取ることができた。とまれ、ナショナリズム以前にすでに、人はこのような感覚に基づいて、自己のなんたるか、あるいはその特殊性を主張するようになっていたわけです。

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