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2006年5月25日 (木)

「北欧」を巡る二律背反

毎週水曜日のデンマーク史のゼミでとてもおもしろい論文を読んでいます。

(また後で書こうと思っていたら、久しぶりに高熱を得て4時間も寝てしまった。のどの痛みと節々の痛みが久しぶりに激しいですね。今日は年に一度の健康診断なのに…、週末までに提出せねばならない書類がまだまだ残っているというのに…。)

Bo Stråth先生といえば、近代における「北欧」世界・社会の形成を研究する上で絶対に避けて通ることのできないユーテボリ出身の研究者(今はフィレンツェのヨーロッパ大学にいらっしゃる)です。彼の"Scandinavian Identity"と題された論文を学部のゼミ生たちと読んでいます。これが、普段僕が考えている幻想としての「北欧」…つまり歴史的地域概念として変貌を遂げる「北欧」という考えと一致していて実に痛快。

(忙しい日々のなかで学生のみんなと机を並べられる時間こそが幸せです。最近、某重大会議でご一緒させてもらっている言語学者の三原健一先生から、「こんなに忙しいと、一日最低30分でも論文を読んでいないと、バカになっちゃうよね…」という言葉を頂いて、これは誠に然りなご助言と思い、しっかり実践しています。この論文、日本における北欧学のエキスパートを養成する大阪外国語大学の学生のみなさんのためにあるような論文だよな。幸せだよな…みんな。)

地理的世界としての北欧において、いわゆる近代的なnation概念が普及するのは19世紀以降のことです。彼の論文は、それ以降現在に至るまで、北欧に生きる人たちの中に懐胎した「北欧」概念は常にアンビヴァレントな性格を有してきていて、統一された「北欧」概念などというものは抽象的に神話化された形で人々の心を捉えてきたものの、決して政治制度や文化的実態を伴った現実としては存在しない…というある意味過激な結論で閉じられています。

近代以降の幻想としての「北欧」概念が懐胎したアンビヴァレンスは、(1)nationとしての「北欧」が語られる際に、王朝・体制側から(すなわち「上から」)体制護持的に「北欧」が主張された一方で、そうした体制を批判する市民・労働者側からも(すなわち「下から」)社会変革の要求の過程で主張されたという、「北欧」という言説構築の過程にまず見られます。

次に(おそらくこれこそが地域としての「北欧」を勉強する際に最も厄介にして、重大な問題なのですが)、(2)nationとしての「北欧」が19世紀以降のスカンディナヴィア主義のなかで語られる一方で、デンマーク・ノルウェー・スウェーデンではそれぞれの国家を単位としたnationも同時並行的に語られていったという、「北欧」におけるnation概念の二重性が見られます。結局、一なる「北欧」は概念上スカンディナヴィア主義のなかで政治的・文化的言説として生産されましたが、現実にnationとして実体化されたのは、デンマーク・ノルウェー・スウェーデンだという議論です。

さらに、(3)nationとしての「北欧」概念が模索される際には、他の地域と同じように歴史的記憶の援用と伝統の創造の過程が見られました。例えば、nationとしての「北欧」が「民族」性の歴史的根拠として依拠した北欧神話は、広く見れば、近代ドイツにおけるnation構築の過程でも数多く援用されていったゲルマン神話に含まれます。つまりnationとしての「北欧」が、nationとしての「ドイツ」をカウンターアイデンティティとして構築されていく過程のなかで、自らを他者と差別化すると見られていた歴史的記憶の援用過程が実は同源であったという…近親憎悪的な二律背反の過程が見られます。

日本では実に単純に「北欧」の存在が語られてしまいますが、実のところ、外交・軍事といったお国事情が絡む局面で北欧諸国が連携できた試しは、歴史的に見て一度もありません。しかし、なぜ一なる「北欧」というイメージがこれほどまで流布しているのか。こうした問題を考えていく上で、以上に紹介した「北欧」概念を巡るアンビヴァレンスという問題はとても重要な話になってくると思います。

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