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2005年11月10日 (木)

スウェーデンのアクアヴィット

で、次はお酒の話。論文執筆と長崎出張の疲れが癒えぬまま、月曜日はとある仕事でテレビ局の方々とお話をしに、 一ヶ月ぶりくらいに梅田に出ました。折角の機会なのでお初天神にあるとあるショットバーに立ち寄りました。 このバーはプロフェッショナルに徹したすばらしいバーテンさんがいらっしゃって、 同じお酒にもかかわらずそれがたいそうおいしく飲めるお店で、僕にとってはとても大切な場所です。技術と知識もさることながら、 居心地のよい雰囲気つくりという点で配慮の行き届いたサービスを提供してくれるバーテンさんには、いつも脱帽です。訪れるたびに「あ! また通いたいな!」と思わせるサプライズが用意されています。例えば、それがこの間の月曜日ならば、 スウェーデンのアクアヴィットを用意して待っていてくれました。そのバーには以前デンマークのアクアヴィットを入れていただき、 そのときもうれしかったのですが、それは前回9月末にたまたま梅田で行われた入試説明会に参加した後、 大阪外大の職員さんの労を労うためにふるまって空けてしまっていました。 そこで空けてしまったデンマークのアクアヴィットはAalborgという銘柄(というかユラン半島北方の生産地の名前ですが)のものですが、 これは最近我が国でも比較的容易に入手できるようになりましたので、あまり珍しいものとは言えません。

ところが今回はスウェーデンのアクアヴィット…その名もO.P.Anderson。 これは我が国でお目にかかるのは実に珍しいアクアヴィットです。アクアヴィットの世界では、デンマークのAalborg、 ノルウェーのGilde(あるいはLøiten)、僕が研究しているスコーネのSkåne、 そしてスウェーデンのO.P.Andersonが四大銘柄としてとりわけ有名です。バーテンさんの話によれば、 Aalborgなどは大手代理店の酒輸入ルートにあって入手しやすいのだけれども、 今回はこじんまりと並行輸入している店から直接購入してみたとのこと。その心遣いが実に嬉しいじゃないですか! 僕の経験から言ってスウェーデンの純粋なアクアヴィット(…つまり香り付けにはディルというハーブしか使っていないオリジナルなもの…) について、我が国で飲むことができた銘柄は、スカンディナヴィア半島南端のSkåne産のスコーネ・アクアヴィットくらい。それだって、 かつて名古屋で研究会があったときに名古屋城を臨むホテルのバーで一度お目にかかっただけ。 だいたいスコーネはかつてはデンマークだったわけだから、今はたまたまスウェーデンに属しているけれども、 純粋なスウェーデン文化を湛えている地域と言えるわけではなく、その点でスコーネ・アクアヴィットはスウェーデンのものとは言い難い。 (そのときは、そこにいらっしゃった研究者の方々が、僕がスコーネに留学してスコーネを研究していることを知っていたので、 あえてそれを注文していただき、皆で乾杯!Skål !と相成った次第…あぁ、持つべき者はよき同志なるかな。)

一般的に言って、おそらくスウェーデンというのはビールも、火酒も本当にいろいろな種類があって豊かな酒文化のある国なんだけれども、 今はその仲買・販売はすべてSystembolagetという国営企業が管理しているから、外国への輸出もいろいろと制限されていて、 我が国からすれば「未知なる国」のままなのかも知れません。アクアヴィットの原義は「生命の水」であって、 これはスコットランドやアイルランドではウィスキーになのですが、北欧ではジャガイモを原料とした蒸留酒のこと。 シュナップスという言い方で知っている人も多いかと思います。(実のところ、 今ではとうもろこしなどが原料の主体に変わっている銘柄も多いのだけれど。)色は無色透明が基本で、 原料が異なるけれども東欧におけるウォッカなんかに近い。香り付けの段階で個性がでてくるスピリッツですが、 基本はディルで仕上げたものです。今回梅田にて味わうことができたO.P.Andersonは、その基本に忠実なアクアヴィットでした。

アクアヴィットの歴史は比較的新しく、名前自体はノルウェーのベルゲンで16世紀に初出するらしいのだけれども(… これは原料を特定できない…)、スウェーデンでは18世紀半ば、 デンマークでは19世紀くらいに製法が東欧あたりから伝来したというのがもっともな説。 そもそもジャガイモが北欧に普及したのも意外と新しく18世紀くらい以降だと言われています… 北欧の農民たちは外来の未知の作物に長らく拒否反応を示していたらしい。) 件のO.P.Andersonは19世紀半ばに活躍したスウェーデンの海外世界への玄関口であるイェーテボリ出身の酒造業者で、 そうしたスウェーデンにおけるアクアヴィット普及の歴史に欠かすことのできない人物。うーん、ベルゲンにしろ、イェーテボリにしろ、 オールボーにしろ、結局港町で発展しているんだなアクアヴィットは。今でこそ「北欧」の“国民”酒みたいに言われている酒だけど、 やはりもとは外来って説は想像に難くありません。

比較的新しく「創造」されたアクアヴィットだけれども、 その普及は爆発的で19世紀末には飲んだくれる労働者たちをどう扱うかということで禁酒運動がスウェーデン全土で展開されていくことになります。 この禁酒運動は近代スウェーデンの歴史のなかでは、地域を越えて全国的に展開され「国民」 意識を陶冶した政治運動の一つとしてよく紹介されます。結局禁酒法に結実することはありませんでしたが、 しかし国家が酒類を統制するという制度は紆余曲折を経て、現在のSystembolagetにまでつながります。そうなんだなぁ… スウェーデンにおける民主主義と「社会国家」の展開は、ある意味、 近代スウェーデンの酒文化への対応の歴史ということでも解釈できるんじゃぁないかと思っています…『酒・福祉・国家』 なんて面白そうなテーマじゃないですか、誰か研究してみませんか、応援しますよぉ。

バーテンさんがとても丁寧に出してくれるよく冷えたアクアヴィットを口に含みながら、そんなことを考えていました。 (ショットグラスにちょっと氷を触れさせてサッとガラスの温度を冷やした上に、キンキンに凍らせた… しかし決して凍ることはないアクアヴィットを給仕してくれるんですから…まず北欧人が見たら驚きの飲み方ですよ。) そのとき折角だからとアクアヴィットを振る舞ったテレビ局の方と僕の同僚はもちろん飲むのがはじめてだったのですが、 はじめて飲む人からは開口一番「さわやかな口当たりだ」とか、「胃腸薬のようだ」とかの感想を頂けます。その通りです! なんてったってディルなんてハーブは、かつては胃腸薬代わりに使っていた薬草なんですから。アクアヴィット確かに強い酒なんだけれど、 しかし飲んでいるとなんだか胃がすっきりしてくるような気がする…酒飲みにはたまらない酒。二日酔いは絶対にありません。 そのときに同僚から返杯にと勧められたヨード香の高いアイラ島のウィスキーはきつかったなぁ…ありゃ、アクアヴィットへの報復だったかな…。 生命の水に生命の水で応えたとしたら、なかなか粋な返答でしたね…って、月曜日から何をやっているのやら。

 

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コメント

とあるお客様のつてでアクアビットのスコーネを手に入れて、
いろいろ調べていたらたどり着きました。
ハーブはディルしか使っていないんですね。
うちでもキンキンに凍らせたものを提供させていただいております。
とても参考になりました。
ありがとうございます。

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