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2005年9月28日 (水)

"Gränsbygd under krig(戦時下の境域)"

ハイテンションで仕事を続けられるのは二日が限度なようで、今日はちょっと寝てました。もとより二晩ほぼ徹夜して過ごし、その翌日長く寝るスタイルが僕のベストパターンです。一般的に人は昼夜だとか、24時間だとかいう指標に絶対的に拘束されすぎのような気がするのですが、人によっては体内時計は決して24時間で回っているのではなく、世の中の習慣や制度が24時間で回っているから、それに合わせざるをえない場合もあると思っています。で、眠りから覚めてみると仕事関連のメールが一気に増えていて、一気に意識がさえわたります。

今日は起きてみたら、Uppsalaの古本やさんからLund大学歴史学部教授Eva Österberg先生の博士号授与論文Gränsbygd under krig(1971,Lund)が届いて、これでまた目が覚めました。この研究は16世紀中葉にあってデンマークとスウェーデンの国境部に位置していたハッランド(スコーネの北西に位置します)地方の経済・行政状況の実態や人口動態などを詳細なデータをもとに実証したものです。1960年代末から70年代初頭という時代状況にあって当時としては全く揺るぎのなかった「スウェーデン」といった概念に、地方の独特な状況、とりわけ境界部に住む人々の自己意識の諸相を提示することにから、再考を迫った記念碑的労作です。

この研究以降、スウェーデンでは地方史研究が単なる郷土史の関心を超えて、より実態に即したスウェーデン像を析出する過程で積極的な位置を占めるようになりました。結局、「経済」や「戦争」といった「スウェーデン」を単位とした発想では、「スウェーデンとは何か?」といった問題には全く答えが出せないということに、スウェーデンの研究者が気がついたと言っても良いのかな。(…実は欧米の歴史学界で重宝されているスウェーデン像とはいまだに戦争や経済をいった指標に立ったスウェーデン像なのですが…)やがてこの流れは冷戦終結とヨーロッパ統合という状況のなかで、スウェーデン人自身が「スウェーデンであること」を再考せざるをえない流れがでてきたときに決定的な動向になりました。例えば、今のスウェーデン歴史学界では「スウェーデン」意識の歴史的再検討はホットなトピックの一つとなっています。

僕自身ルンド大学への留学を機に、スコーネ地方の研究を軸に「スウェーデン」意識とは何かという問題に取り組んでいますが、それは直接このÖsterberg先生以来の(主にデンマークとの境域にあるルンドで懐胎されてきた)議論に与しているということです。もちろんÖsterberg先生の前にもスコーネやハッランドなどの今で言う南スウェーデンを研究してきた蓄積もあるわけです。(…例えばÖsterberg先生の先生にあたるJerker Rosen先生のように…)しかし両者の決定的な違いは、地方を考える前提となる思考の枠組みが何の疑いもなく「スウェーデン」だったのはRosen先生の世代まで。Österberg先生以降の世代は(…うん、彼女もやはり68年世代のひとりということもあるし、近世研究のほかに近現代の女性問題も研究している女性運動の闘志のひとりということもあるのだが…)、地方を見る際に、はじめから好事家よろしく地方の実態に迫ろうとしているのではなくて、地方を見る際に前提とされてきた「スウェーデン」という大枠を批判的に再検討しようとするより普遍的問題に、地方社会という個別的問題から迫るようになったと言えるんです。

正直に言うと、ぼくもかつて留学する前はこのÖsterberg先生の研究を読んで、「今更、中央と地方の行政関係を研究してどうなるの?」とか短絡的な感想をもっていたのだけれども、実際に「スウェーデン」に深く接するようになると、この研究が「スウェーデン」という偶像を破壊するようなインパクトを持っていたんだと思うようなりました。(もちろんルンドで直接彼女に会って、彼女のゼミナールに参加させてもらって、彼女の人柄に感動して、一から勉強しなおしたということもあるんだけれども。彼女と会うと決まってオペラの話をしていたのが懐かしいですねぇ…僕が「R.シュトラウスが好きです」なんて言ったら、「あら、珍しい」と返してくれた…。)おそらく今スウェーデンの歴史家のなかでもっとも国際的に知名度のある研究者であり、スウェーデン国内でもっとも尊敬されている女性のひとりです。日本の研究者でも国際的な学会(国際歴史家会議など)に参加されると必ず彼女に会うんじゃないかな。かつて城戸毅先生から「彼女にお会いしました」と伺ったことがあります。

寝起きだからでしょうか…本当はこの研究書が発注してから5日で手元に届いたこと…そのあまりのはやさで目が覚めたことだけを書きたかったのですが…、(こんな感じで、「スウェーデン史研究の必読書10」というシリーズでも始めましょうかね…需要があるのでしょうか。)こんな稀覯本を(在庫さえあれば)こんなに短期間で買えるとは、すごい世の中になってしまいました。

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