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2005年9月14日 (水)

ノルウェーの総選挙


日本の衆議院選挙が終わり、うーん、Dagens Nyheterでも、Svenska Dagbladetでも、どうもスウェーデンでは報道されるには報道されているんだけど、はっきり言って日本のマスコミが伝える内容そのままの受け売りを伝えるような…今回の選挙の核心に迫る報道が少ないなぁと思っていたら(… 東アジアにおける日本のニュースヴァリューが減っているということもあるでしょうが、イギリスやアメリカに比べるとまだまだ的確な日本の情勢分析ができる論者がスウェーデンには育っていないということじゃぁないでしょうか… それは逆もまた真なりで…日本において的確にスウェーデンを論じうる者の数が少ないということでもありましょう。ニッチかもしれないけど、外国語大学の役割を感じます…)、そんな矢先にノルウェー国会の総選挙の結果が伝わってきました。


今回のノルウェー国会(Stortinget)の選挙結果はすでに報道されている通りで、2001年に下野した労働党が左派社会党・中央党とともに「赤・緑」連合を組んで勝利し、足かけ5年ぶりに政権復帰を果たしました。端から見ていてこの選挙結果の最大の謎は、国連開発計画の発表している人間開発報告書における「人間の豊かさ」指標で5年連続世界一位とされてきたノルウェーで、なぜ今政権交代が起きたのかという点です。この5年の間政権担当していたのは保守党・キリスト教民主党の保守中道同盟ですが、今回の選挙で敗北したノルウェーのボンネヴィーク首相はこの質問を受けて、思わず答えることができなかったそうです。


それはそうでしょう…この5年間、ボンネヴィーク政権は、世界第三位の輸出量を誇る石油資源に依拠した好景気に支えられ、失政らしい失政はなかったのですから。現在のノルウェーを根幹から支える石油がらみの問題は今回の政変劇の大きな要因の一つだったことは、衆目の一致するところでしょう。この十数年来ノルウェーにとっておさらく最大の課題は石油資源に依存しきった市場構造の脱却にあります。好景気にあったボンネヴィーク政権は石油資源だけに依拠しないノルウェー経済のさらなる底上げを図るべく、市場規制の緩和や財政出動の縮小を試みていました。(あまり報道されていないことですが、実は今回の選挙戦の一つの争点は日本と同じように郵便事業の民営化問題がありました。もちろん日本のような財政投融資制度の抜本的改革ということではありませんが、ノルウェー政府はこれまで国有だった郵便事業を2007年までに清算することで財政支出を抑えようとしていました。)いわば「小さな政府」をめざすことによって可能になる減税措置よって、さらなる市場の刺激を図ろうとしていたのです。しかしこの政策が弱者切り捨ての「金持ち」優遇と映ったようで、現政権の敗北につながってしまいました。


ノルウェーの有権者が多くの日本の有権者と異なる点は、自らの「足下」にある問題に対して、(端から見ると心配性に見えるほど)至極現実的であるということだと思います。今回の選挙結果については、ノルウェーの有権者が古典的な社会福祉国家への回帰を望んだ…すなわち「虎の子」の豊かな石油資源の利益を社会に還元させつつ、高い税負担も厭わないから再び高度な福祉政策を充実させることを望んだ結果だと分析されています。確かに日本と比較してみるとおもしろくて、小泉自民党は日本経済の「虎の子」だった郵政事業資金を開放してしまうわけですが、ノルウェーの場合それにあたるものが石油資源で、ノルウェーが頑なにEU加盟に否定的なことからもわかるように(この路線は今回の選挙でもかわりません)、「虎の子」である石油資源は決して開放せず、むしろそれを元本としながらセーフティーネットの構築が選択されたというわけで、今回の選挙結果は日本とはまるで正反対とのところにあるように映ります。


しかし昨今の世界的な石油資源を巡る動静が伝えられているこの折りに、果たしてノルウェーの有権者がいつまでも石油資源にばかり依存できると考えて、今回の「赤・緑」連合へ支持したのでしょうか?僕は、むしろノルウェーの有権者は、石油資源に依拠しない新たな高度福祉国家建設の実験を選択したのだろうと思っています。先日小泉自民党に支持を与えた多くの日本の有権者からすれば驚くべき事かもしれませんが、弱肉強食の社会を否定し、減税よりも増税を是としながら、長期的な視点に立ってみれば、枯渇が目に見えている石油資源などに依存しなくても実現可能な生活保護の制度構築にのりだそうとしているということです。 生きていくことに必死だからこその実験です。


しかしながらセーフティーネット構築の在り方をめぐっては、ノルウェーがEUから一歩身を引いた社会であるがゆえに、今回の選挙では進歩党という極右勢力の躍進をも許しました。誠に奇妙なもので、移民排斥という主張を除くならば、減税と福祉の充実という相矛盾する政策を同時に掲げていたのは先日の日本における総選挙では、まったく極右から離れたいくつかの政党で唱えられていたことです。まぁ、こうした現実離れした政策の提示については、国民受けのよさだけを狙ったものだとの批判がノルウェーでもあったわけですが、少なくとも移民排斥という形で示された、既存のノルウェー国民だけで固まって自己保存を図ろうとするセーフティーネットの在り方は支持を集めたようです。そう…今回の選挙で勝利した政党(「赤・緑」連合にせよ、進歩党にせよ)に共通して見られるのは、何らかの形でノルウェーの有権者たちの生活を保護する将来的ヴィジョンを示せたところだと結論できるでしょう。


そうそう…日本では全く報道されないことでしょうから補足しておきますが、今回の国会選挙では同時に北極圏を生活圏とするサーミ人によるサーミ議会(Samitinget)の選挙も実施されました。今年の初めに新フィンマルク法という法律ができたことによって、サーミ人の自治的権能がこれまでよりも大幅に拡張され、ノルウェー当局の干渉がぐっと減少したのですが、今回はこの新たな体制後初の選挙となりました。従来このサーミ議会の議長を輩出してきたサーミ人の政治組織(ノルウェー・サーミ人全国連盟と言いますが)は、長年この議会を通じて中央のノルウェー政府(つまり長年労働党が与党だった)と対立してきた経緯があります。しかし国会選挙と連動した今回の選挙ではサーミ人の間でも労働党への支持が集まり、サーミ議会の議長は労働党に属する女性が就任する運びです。もちろんこの女性はサーミですが、サーミ議会がノルウェーの政党である労働党を与党として受け入れることの意味は重い。少数民族が自らの権利を声高主張するだけの時代はノルウェーではすでに終わっていて、共生に向けた次の段階がはじまっているということです。


ここまでのノルウェー総選挙の話は、確かに有権者の数が400万人にも満たない小さな国の話です。しかしながら、だからこそ可能な実験国家の面目躍如たる話に溢れた話題でもあります。今回のノルウェーの総選挙には、中央アジア諸国の人々が選挙制度の実例を学ぶ目的で選挙監視員の形で招かれていて、彼らはこの選挙で示された議会制民主主義の過程と結果に驚愕していた…という記事を読みました。そういえば日本の総選挙には、例えばそうした地域からの選挙監視員が来たなんて、聴いたことありませんね。日本経済とあまり関係のない地域は「切り捨て」という発想でしょうか…そんなことだから世界(といっても本当に関心をもっていたのは東アジア諸国と英米資本だけど思うのですが)に注目されていたのは結局、お金と小泉流の世論操作ばかりだったということですね。僕は決してノルウェー・シンパではないし、人口規模や社会的・文化的環境の差異を考えれば「ノルウェーのよいところを学んで日本に活かす」などと安易な発想は毛頭持ちませんが、日本が今立っている情況を白日の下にさらすに必要となる比較例として、ノルウェーがあまりに対極にあるが故に興味深かったのでご紹介しました。

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興味深かった。http://gustav.air-nifty.com/furuya/2005/09/post_7546.html 今回の選挙で勝利した政党に共通して見られるのは、何らかの形でノルウェーの有権者たちの生活を保護する将来的ヴィジョンを示せたところだと結論できるでしょう。 ここがミソなんだろうなぁなどと。 ... [続きを読む]

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