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2005年6月26日 (日)

バルト・スカンディナヴィア研究会のこと

前言にも示したように昨日は早稲田大学で開かれたバルト研に参加しました。バルト研へ向かう前に片づけねばならなかった仕事がハードで時間もおしてしまったので、かなり遅れての参加でしたが早稲田大学でデンマーク史を講じておられる村井誠人先生の「日本デンマークのこと」に関するご報告の後半部分をお伺いすることができました。

大阪へ来てからこの研究会へ参加する機会はめっきり減ったものの、それゆえに偶に参加できたときには(なんていうか)「癒される」感覚を僕はいつも得ます。研究会というと緊張が張りつめた感じのする(…時には激しい議論の応酬もある…)「戦いの場」のような雰囲気のものもありますが、(…それもまた切磋琢磨するということでは良い雰囲気ですが…そればかりでは疲れてしまう)、この研究会については僕にとっては「癒しの場」のような暖かい雰囲気があるのです。昔馴染みの面々が談笑を交えながら特に司会を立てるまでもなく自由に議論する感じは、参加者個々が正直に「北欧」への意見や心情を吐露する雰囲気を醸し出しています。また、「北欧」に対する問題関心が多くの参加者によって共有されているという点も、良い意味で「安心感」が得られる理由なのかも知れません。

この研究会における「北欧」への関心は、なによりもまず我が国で一般的に流布している「北欧」イメージあるいは「北欧」の固定概念に批判的であることからはじまっています。今回の村井先生の「日本デンマーク」についても、この関心は通底しています。僕が遅れて入っていったときには、先生はすでに加藤完治と内原訓練所を話題にされていて(そうした話の展開を事前に想像していたとはいえ)驚いたのですが、例えば、三河安城の「日本デンマーク」についても、ただ単にデンマーク(あるいは「北欧」)を単純に理想化して日本社会へその知見を導入する危険性というより大きな問題の存在が明らかにされました。これについて、より厳密に言うならば、一見デンマーク(あるいは「北欧」)の事例に言寄せ、そのことを理解しているような言説であっても、実際にはその引用者が生きる時代環境とその者の思考枠組に規定されるなかで、もともとのデンマーク(あるいは「北欧」)の言説は我が国の引用者によって“横領”され、デンマーク(あるいは「北欧」)像は歪められフィクションが形成された過程が、昭和初期の我が国における農村の青少年教育運動を事例としても見られたということです。

我が国において「北欧」が参照される場合、多くの事例はそうした言説の“横領”化(あるいは自分の問題関心に照らしたうえですでに結論が先にあったうえでの「良いところ」どりの過程)の結果であることを意識する必要があります。例えば、内村鑑三の『デンマルク国の話』はよくグロントヴィ主義を伝えるテキストだと言われますが、しかしそのなかにダルガス父子のヒース(荒地)改革の話はあっても、グロントヴィ自身のことは一切触れられていません。グロントヴィの思想(… それだってまた19世紀デンマーク社会のなかにあって要請されていた「国民」創生の必要性からグロントヴィが産み出したフィクションにすぎない… これはいわばイギリス史におけるホイッグ史観に比肩しうる言説だと僕は考えていますが…)でもあるにかかわらず、そうした言説の実態を理解することなく、二重・三重の“横領”が行われてしまう…。昭和初期にデンマークにおける国民高等学校での農民教育に触発された様々な運動が、最終的には満蒙開拓事業の悲劇へ荷担した過程を見れば、こうした言説の“横領”がもつ危険性は十分に理解されるところでしょう。(なぜ昭和初期にそうした運動を主唱した人々が世界中数ある国々のなかでデンマークにたどり着いたかについては、これからの研究を待たねばなりません。)

地域研究については、我が国で知られることのなかった事実一つ一つの紹介に努めることも大切ですが、そうした事実を「事実」として認識させるような(目にはなかなか見えにくい)閉ざされた言説の枠組みにも十分に慎重になる必要があります。とりわけ社会福祉や地域間協力などといえばいつも参照例に挙げられる「北欧」を学ぶ者は、よりこの問題に敏感である必要があります。バルト研に参加してみていつも感じる「安心感」は、こうした問題関心の共有のうえに地域研究の「良心」が示される場だからなのかもしれません。(もちろん懇親会での居心地の良さもあります… 遅くまでおつきあいくださった皆様ありがとうございました。久しぶりに僕は良い気持ちになって、葛西のほうまで寝過ごしてしまいました。)

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